精神科病院は一般に電子カルテシステム導入などのIT化が遅れている。その半面、精神科治療では電子カルテの重要性が高い。医師・看護師に加え、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士など、多職種のコメディカルがかかわるため、情報の一元的管理が必要だからだ。秋田県の横手興生病院は、2009年6月に外来部門で電子カルテシステムを稼動させ、同年9月に全面稼働に踏み切った。情報の一元化・共有化をベースに、チーム医療の推進による精神科医療の質向上を狙っている。
チーム医療の実践に向け、情報の一元化・共有化を目指したシステムを導入

1946年に開業した横手興生病院は、秋田県南の基幹精神科病院、精神科救急地域拠点病院としての役割を担っている。特に救急医療については、「秋田県精神科救急医療システム」の県南救急医療圏の拠点病院として、運用当初から救急診療を行っている。2005年には、50床の精神科急性期治療病棟(入院料1)の運用を開始。2010年3月には、精神科救急入院料病棟(スーパー救急病棟)の認可を受けて本運用を開始する予定である。また、生活訓練施設や地域生活支援センター、就労支援センターなどの福祉サービス事業も展開しており、患者の社会復帰と社会参加の促進に努めている。
こうした急性期治療、退院促進、地域生活支援など同院が取り組む治療基本を実践し、質の高い治療・ケアサービスを提供するために、チーム医療の推進が求められてきた。同病院副看護部長の神原繁行氏は、システム導入の背景を次のように述べる。「精神科の治療過程では、医師と看護師はもちろん、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士などのコメディカルがかかわっています。多くの職種によるチーム医療を効果的かつ効率的に推進するには、患者さんの情報の一元化・共有化が重要なポイントです。しかし、従来はそれぞれの部署で患者記録を作成・管理しており、それを1冊の紙カルテにまとめるのは物理的に困難なため、1人の患者さんの情報を集約した状態で閲覧することができませんでした。そこでチーム医療推進のためのツールとして、電子カルテシステムER を中心とした病院情報システムの導入に踏み切りました」。
外来診療では、(1)医師によるカルテ記載・処方→(2)外来医事の請求入力→(3)薬局の処方監査→(4)外来医事の請求書発行、という順番で人手を介して紙カルテが移動するため、外来患者から待ち時間が長いという苦情が寄せられていた。そのプロセスを電子化することで患者サービスを向上させることも、電子カルテシステム導入の目的のひとつだった。
コストパフォーマンスと運用保守体制を重視して選定
電子カルテシステムの導入検討を始めたのは5年前。まず精神科病院に電子カルテがなじむかどうか探るため、当時、すでにシステムを導入・運用していた精神科単科病院を見学して回ったという。神原氏は、当時についてこう述懐する。「九州まで脚をのばして見学しましたが、見た限りではどこもうまく活用しており、導入のメリットは十分にあると感じました。それを契機に各ベンダーに声をかけ、機種選定を行いました。ただし、病院の全面的な建て替えを控えていて厳しい予算の中での選定だったため、コストパフォーマンスを最重視しました。電子カルテ、病棟看護支援、リハビリ(作業療法)管理、医事会計など、トータルで最もコストパフォーマンスに優れていたのが、ワイズマンの一連のシステムでした」。

精神科向け電子カルテシステムには、精神障害福祉法に基づいた報告書等の公文書の作成・管理、患者の生活歴管理やエピソード記録、隔離や拘束といった行動制限オーダー機能が実装されている。神原氏が見学した精神科病院は、すべて精神科向け電子カルテシステムを導入していた。「精神科に特化した機能もそれぞれ実装されていましたが、実務的にそこまで必要ではないのでは、という機能も多くありました。見学先施設のあるスタッフは『機能の数割ぐらいしか利用していない』と言っていました。結果として、行動制限オーダーなど精神科特有のオーダーでも、ワイズマンの電子カルテシステムERのオーダー機能で対応できると考えました」と神原氏は説明する。精神科向けを標榜している電子カルテシステムは、トップシェアでも十数施設というのが実状で、導入実績としては電子カルテシステムERの方が圧倒的。選定の背景には、実績に対する安心感もあったという。
神原氏は、コストパフォーマンスと並んで重要視したのが、システム保守業務を含むアフターサービス体制だと強調する。事務電子機器係の伊藤剛氏は「システムトラブル時の初期対応を、地元のシステムインテグレータとベンダーが連携して対応する体制を確立していることが、非常に重要と考えました。各社に確実にそうした環境を構築できるのかを確認したところ、最も対応に信頼をおけるのがワイズマンでした。本社が盛岡市にあって地理的に近く、迅速な対応が可能という安心感も大きな要素でした」。
また、機能の仕様変更や拡張といった要望に対して、順次可能な範囲でバージョンアップ時に対応する体制をとっていることも評価している。改修・拡張はシステムの整合性を図りながらの作業であるため、すべての要望にただちに対応することは難しい。だが、「常に意見・要望をヒアリングして、実現に向けて努力してくれることと、そこに我々も参加して一緒にシステムを成長させていこうという環境を作れたことに、大きな意味がある」と神原氏は語る。

