東京都厚生農業協同組合連合会(JA東京厚生連)の健診センターであるJA東京健康管理センターは、2010年4月に新たな総合健診システムの運用を開始した。新しく導入した「LANPEX evolution」(エム・オー・エム・テクノロジー社製)は、国内で初めてコンティニュア規格に準拠した総合健診システム。特徴は、検査機器(ME)から健診システムへ検査データを転送する際に、無線通信(Bluetooth)を利用すること。検査機器連携システムの開発コスト削減、従来の健診データ収集の仕組みから生じる制約からの解放などが見込め、利便性の高い業務運用が期待される。
JA東京健康管理センターを運営するJA東京厚生連は、全国に35ある厚生連合会の1つ。1981年に健康管理専門連合会として発足し、東京都の農業協同組合員とその家族や地域住民の健康管理を図るために、健康診断や健康の維持・増進のための健康相談・栄養指導等の保健事業を展開している。主な事業である健康診断は、組合員とその家族、立川市近辺の契約事業所の社員を対象に、人間ドック(年間約6300人)、成人・一般健診(同約2000人)、巡回健診(委託)などを行っている。
使い勝手の改善、サービスの差別化を目指して健診システムをリプレース

JA東京健康管理センターは、2002年に現在のビルを新築した際に総合健診システムを導入。予約・受付管理から健診結果の取りまとめまで、一貫したシステムによる運用を行ってきた。旧システム導入後7年を経過し、データ量増加と設備の老朽化、使い勝手に対する不満などから、新システム「LANPEX」へのリプレースに踏み切った。
新システムの選定にあたっては、旧システムの後継バージョンのほか4社の総合健診システムを比較検討した。健康管理センター部長の板谷秀人氏は、LANPEX導入を決定した理由を次のように述べる。 「選定の最も大きな要因は、WINDOWS7に即時に対応出来ることと、JA山梨厚生連がLANPEXを5年前から運用しており、見学した際にそのシステムなら大丈夫と判断したからです。また、受付業務や判定支援業務、健診報告書の記載仕様などサービスの差別化ができる部分で、カスタマイズが可能であることも評価しました」(板谷氏)。
健診施設では、他施設とのサービスの差別化の1つとして健診システムを活用しようという考えがあるという。例えば、報告書や事後指導の内容を深く詳細にする、検査画像やグラフ表示などで受診者にわかりやすいものにする、などが挙げられる。そのためには健診施設の要求に応えられる仕様、体制が必要になる。開発元のエム・オー・エム・テクノロジーによると、社内に開発センターを持っており、ユーザーの要件に従って個別に開発を進められるため、健診施設のオリジナリティを出せるようなサービスを提供できるのが、LANPEXの特徴の1つだという。
運用の要になる検査機器との連携、健診データ収集の仕組み

健診システムでは、予約・受付業務や判定支援業務、報告業務などに対応する基本的な機能のほかに、各種検査機器との連携によるデータ収集機能が重要な要素となる。検査データを健診システムの端末に手作業で入力していては、検査スタッフの負担が大きい上に入力ミスを避けられないからだ。身長・体重計や血圧計、スパイロメーター(肺機能検査機器)などは、データ出力の物理インタフェースとして有線シリアル通信であるRS-232Cを備えているものが多い。データ収集の方法は、専用のデータ収集端末による方式、リライトカードを利用したオンラインまたはオフライン方式、ハンディターミナルを使った転送方式など、各種のソリューションがある。
JA東京健康管理センターの旧システムでは、受診者はまず受付でリライトカードを発行してもらい、検査時に各検査機器に接続されたリーダーに挿入すると、検査データがオンラインでデータ収集コントローラ(デスクトップPC)に転送され、さらにホストサーバーに送信される仕組みだった。このデータ収集方法には、(1)各検査機器に必ず1台のリライトカードリーダーが必要でコスト増大を招くこと、(2)数台の検査機器の接続を1台のデスクトップPCに集約できるが、その反面相当分のデスクトップPCが必要になること、(3)リライトカードリーダーやデスクトップPCが故障した場合、代替え機と簡単に交換できないため健診サービスがストップする、という問題があった。
新システムでは、各種検査機器それぞれにノートPCを直接接続し、受付時に受診者に発行されるバーコードシートを検査ごとに読み取り、検査機器から健診システムにオンラインでデータ転送する仕組みにした。「旧システムでは20数台のリライトカードリーダーを使っていましたが、新システムで同じ仕組みを導入すると約30台のリライトカードリーダーが必要になり、その導入コストだけで約1000万円に上ります。ノートPCが検査機器ごとに必要になりますが、はるかに低いコストでの運用が可能であるのに加えて、ノートPCが故障しても、簡単に代替え機を用意できるメリットがあります」(板谷氏)。
インタフェースの個別開発のデメリットを払拭するコンティニュア規格
新システムで、検査機器とオンライン接続されてデータ転送されているのは、身長・体重・体脂肪計(一体型)、血圧計、スパイロメーター、聴力計、超音波検査・画像診断機器(MR・CT・CR・DR・マンモグラフィはDICOMサーバー経由)。心電図だけは、受診者データ(属性)のみ連携している。
健診システム導入の大きな課題は、データ収集の仕組み以前に検査機器とのデータ連携で、それぞれのデバイスごとに仕様設計・開発が必要であることだ。「基本的に検査機器のメーカー名、型番が導入ユーザーから提示されるので、検査機器ベンダーの仕様書に基づいてインタフェースの設計・開発を個別に実施しています。開発作業に加え、実際に現場で動作確認作業も必要で、その費用を含めた開発費を導入ユーザーに請求することになります」(エム・オー・エム・テクノロジー主席執行役員システム統括部長 加藤利典氏)という状況で、1検査機器につき50万~150万円の開発コストが発生するという。現状では、健診システムベンダーは検査機器の仕様をすべてフォローしきれないし、ユーザー側も検査機器リプレースの度にインタフェース開発コストを負担する必要がある。
