福岡市早良区の医療法人 誠和会牟田病院は、電子カルテシステムを中心に各部門システムを導入し、病院全体のIT化を一気に進めた。2009年3月に本格運用を開始し、情報のほとんどを電子化した結果、診療・医事業務の大幅な効率化と診療の質向上につながった。特に医療部門と介護福祉部門にまたがる業務処理を、システムでトータルにカバーするようにしたことで、両部門間の情報共有を実現すると同時に、業務経費の削減にもつなげることができた。
1987年に開院した誠和会牟田病院は、福岡市の商業中心地・天神から南西約4kmの市街地にある。「より暖かく、より確かな医療と福祉を地域住民に」をモットーに、近隣地域を中心に医療・福祉サービスを提供している。近隣に大学病院など大規模急性期病院が立地しており、一般病棟60床、療養病棟60床、回復期リハビリテーション病棟43床という構成になっている。「確かな医療技術と福祉の中で地域の皆様の健康を、また、患者様の生命と人生を支える存在でありたい」(院長 牟田和男氏)という志を基に、地域住民のホームドクターという立場で、予防医学を含めた医療、看護、介護サービスまで一貫したケアを提供している。
全診療部門と医事部門を一気にIT化推進

誠和会牟田病院は、高齢化社会での在宅医療の必要性を痛感して88年に訪問看護を開始し、93年には訪問看護ステーションを開設した。高齢者の介護により積極的に取り組むために、95年以降介護福祉部門を拡充させてきた。介護老人保健施設を開所し、医学的管理の下で最適な看護と介護を提供すると同時に、在宅福祉の質の向上のために居宅介護支援センター、訪問介護、訪問リハビリテーション、デイケアの運営を行っている。
大規模病院や新規の診療所に比べて、300床以下の中小規模病院のIT化は遅れていると言われる。誠和会牟田病院でも、IT化の必要性は感じつつも、取り組みは進んでいなかった。医事関係以外では、2006年に看護支援システムを導入し、病棟看護業務の多少の効率化を実現した。ただし、情報は一部に閉じられたものであり、情報の活用や診療業務全体のパフォーマンス向上までには至っていなかった。
「IT化の先駆けとして導入した看護支援システムも、将来的にフルオーダーを目指していました。ただ、一部の業務のシステム化にとどまっていたために、利活用が進んでいませんでした。しかも、そのベンダーは当時電子カルテシステムを開発中で、完全なIT化の見通しが立たない状況だったのです。そこで、改めて病院のIT化プロジェクトを進めることにしました」。旧看護支援システム導入後にシステム化の責任者に抜擢された企画室長の義本正二氏は、電子カルテシステムを中心とした病院のIT化に踏み切った経緯をこう話す。
それまではレセコンと看護支援システムだけをIT化していたが、そのプロジェクトは、フルオーダリング、電子カルテ、病棟看護支援、PACSによるフィルムレス、医事会計システムと、ほぼ病院業務すべてのIT化を一気に進めるものだった。「当初は段階的に導入することも検討しましたが、導入ユーザーやベンダーの話を聞いても、導入作業の効率も悪いし、コスト効率も悪いという声が多かったので、一気にIT化を推進することにしました」(義本氏)。
医療と介護サービスをシームレスにカバーできるシステムを選定

IT化推進プロジェクトを進めるにあたって義本氏は、電子カルテシステムの利用実態を理解するために、他県の同規模病院を視察して回った。そこで得られた情報を検討し、システム導入の基本要件を挙げていった。
その中で前提条件としたのが、(1)医療部門と介護福祉部門の両方で情報共有できるシステムであること、(2)専任のシステム要員を置かなくても運用が可能なシステムであること、の2つだった。その後1次選考で選んだ4社の製品を検討した結果、ワイズマンの電子カルテシステムを中心としたパッケージを導入することに決定した。
義本氏は「地域住民に対して医療から介護まで一貫したケアサービスの提供を志向してきているため、医療部門で蓄積した患者情報を、その後の介護サービスでもシームレスに活用できる一貫したシステムが望まれました。ワイズマンは介護系システムのノウハウ、実績があり、1つのシステムで医療と介護の両方の業務をサポートできるのではないかと考え、導入を決定しました」と、システム選定の理由を述べる。
