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 帝京大学医学部附属病院(以下、帝京大学病院)は、病棟のベッドサイドでの血圧測定にコンティニュア規格に準拠した血圧計を使用し、測定データを病院情報システムに自動投入する実証実験を行っている。医療・健康機器とシステムの接続を実現することで、医療スタッフのデータ収集における業務負荷を軽減すると同時に、患者の医療データ活用の可能性を広げるための医療ITのラストワンマイルソリューションとしての有効性を実証しようとしている。


 通信業界でよく使われる「ラストワンマイル」という言葉は、通信事業者の持つ基幹回線から利用者の建物まで引き込む接続回線のこと。これになぞらえ、帝京大学本部情報システム部部長の澤智博氏は、放射線科のモダリティをはじめ、各種検査機器から医療情報システム(HIS)にデータ投入する末端部分を「医療ITのラストワンマイル」と呼んでいる。同氏は、医療現場のIT化が以前の期待ほど効果を上げていない背景には、このラストワンマイルの問題が少なからず影響している、と指摘する。

医療ITの新たなパラダイム、ラストワンマイルソリューションがカギ

帝京大学本部情報システム部部長、同大医療情報システム研究センター教授の澤 智博氏

 「90年代から、ITの活用が医療を高度化すると言われてきました。さまざまなソリューションが登場してきたものの、期待されるほどの成果が出ていないのが実情です。その理由の1つは、現在の医療ITが取り扱っている情報が、人間が扱える程度の情報量に留まっているからだと思っています。コンピューターを利用することの大きなメリットは、人間では扱いが不可能な膨大なデータを高速処理することによって、新しいパラダイムを生み出すこと。現在の医療ITは、カルテの枠から出ていないのです。そこに記された、頭で理解できる程度の情報量では、人間の思考や判断を超えるような結果は得られません」と澤氏は解説する。

 それでは、結果を得るためには何が必要なのか。「医療現場で発生する膨大な情報を収集する必要があります。そのためには、医療現場のラストワンマイルを克服しなければなりません」(澤氏)。

 病院内での医療情報は、患者の個人情報や診断情報、検査情報、治療情報、看護情報など、さまざまな部門で発生する。放射線科や臨床検査部門で発生する情報は、モダリティのディジタル化などにより、かなりの部分を病院情報システムに蓄積できるようになった。一方、体温や血圧など病棟部門における患者のバイタル情報は、現在でももっぱら医療スタッフが手作業で情報を収集し、記録している。これでは、取得できる情報量に限りがある。人間の手作業で取得できる範囲の情報をコンピューターで処理しても、分析の支援にはなるが、革新的な成果は得られない。

 「特に病棟看護に見られるように、看護師が患者さんから得た情報を記憶に留め、ナースステーションに戻って記録するという情報収集・記録の方法では、それがボトルネックになって情報量が制約されます。同時に、エラーの起きる確率も高い。医療者が何かアクションを起こすたびに情報は生成されるわけですから、それを自動的に記録し、バックグラウンドで処理される仕組みを作らない限り、医療ITのパラダイムを作り出せません」(澤氏)。

 そこで重要になるのが、データの収集と医療情報システムへの投入を自動化するためのラストワンマイルソリューションである。病棟におけるラストワンマイルソリューションとして、帝京大学病院は、コンティニュア・ヘルス・アライアンスによる医療・健康管理機器の相互接続・相互運用を実現する標準規格に注目し、コンティニュア準拠の血圧計を使った実証実験を開始した。

自動血圧計のデータを電子カルテに反映させるプロセスを自動化

ノートPCに「iEHRデータレジスタ」を実装し、バーコードから利用者IDや患者IDを読み取って利用する

 実証実験には、コンティニュア設計ガイドラインに準拠したエー・アンド・デイの自動血圧計「TM-2580」を使用。測定した入院患者の血圧データは、ベッドサイド業務支援用ノートPCを経由して、電子カルテシステム上でバイタルや摂食、排尿などを記録する「温度板」へ自動的に投入される。そのためのノートPC取り込み用のソフトウエアを開発し、電子カルテシステムとのデータ連携を実現した。

 まず、看護師は患者の血圧を測定する際、ノートPCに実装された「iEHRデータレジスタ」(データ取り込み用ソフトウエア)を起動し、医療者IDカードのバーコードから「利用者ID」を、患者のリストバンドのバーコードから「患者ID」を読み取る。前者でデータ投入先が自動的に指定され、後者でデータ入力の際の患者取り違いを防止する。血圧を測定すると、収縮期・拡張期血圧データは、即座にノートPCに転送されてソフトウエアの画面に表示され、登録ボタンをクリックするだけで病院情報システムに転送される。登録作業をすべて自動化することは簡単にできるが、看護師に患者IDやデータを目視確認してもらうために、あえてボタンをクリックするプロセスを加えている。

帝京大学病院の実証実験の概念図