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撮影には、コンティニュア設計ガイドラインに準拠したエー・アンド・デイの自動血圧計「TM-2580」とパナソニック製の医療用タブレットPC「CF-H1」を使用

 帝京大学病院は、電子カルテシステムや各部門システムのデータ連携を実現する病院情報連携基盤としての機能と、クリニカルデータレポジトリに蓄積した情報を参照できる医療情報ポータルとしての機能を持つ、統合型病院情報システム「iEHR」を構築している。ベッドサイド業務支援用ノートPCに取り込まれたバイタルデータは、まずこのiEHRに投入され、さらに自動的に電子カルテ「HOPE/EGMAIN-GX」の温度板機能に転送されるようになっている。

 自動血圧計はコンティニュア規格に準拠しており、ノートPCにはコンティニュア準拠のBluetooth用のプロトコルスタック(東芝製)が実装されている。そのため、デバイス間の通信に関して、ユーザー側は細かい設定などにわずらわされることはない。データ取り込み用のソフトウエアも、公開された仕様に基づいて開発が可能である。

 また、帝京大学病院のiEHRは、SOA(サービス指向アーキテクチャ)技術を採用して構築されており、ビジネスプロセスを定義するBPEL(Business Process Execution Language for Web Services)という言語を使って、ブロックを組み立てるような作業で、ノートPCからのデータとiEHRを連携させることができる。iEHRデータレジスタの設計・開発とiEHRへの連携作業を合わせて、わずか3日で開発できた。

 医療情報システム研究センター助教の水谷晃三氏は「iEHRデータレジスタのプログラムは、利用者IDの確認、患者IDの確認、コンティニュア準拠のデータ転送、などの機能がモジュール化しています。病院の環境に合わせてモジュールを入れ替えて使用することで、どんなシステムの環境にも容易に対応することができます」と説明する。

 従来、生体情報をデバイスから取り込む仕組みは、検査機器メーカー独自の仕様に基づいて連携するパターンにほぼ限られていた。その仕様が公開されることはめったになく、インタフェースの開発までベンダーに依存するしかなかった。「業界標準であるコンティニュア規格は一般に公開されており、ユーザー自身がソフトウエア開発できると同時に、労力を最小限に抑えられるという大きなメリットがあります」と澤氏は指摘する。

医療者のデータ収集労力の負担を大幅に削減

血圧計からノートPCに取り込まれた血圧のデータはiEHRに投入され、自動的に電子カルテ温度板機能に転送される

 従来のやり方では、看護師が測定した患者のバイタルデータをシステムに入力するためには、病棟業務支援システムの病棟マップか入院患者一覧から、当該患者の情報を呼び出し、温度板を表示させてからキーボードで入力・登録しなければならない。しかも、患者単位でこの作業を繰り返さなければならず、バイタルデータ入力の一連の作業は相当な手間がかかる。血圧データの入力オンライン化は、キーボード入力作業をなくすだけでなく、電子カルテの温度板画面に行き着くまでに必要な操作ステップを省略できるため、作業効率は大幅にアップする。同時に、患者取り違えやキーボード入力ミスも回避できる。

 帝京大学病院には、常時900人以上の入院患者がいる。患者1人あたりの血圧測定・データ入力の作業時間は数分であっても、全病棟で合計すれば相当な作業時間が費やされている。現在は実証実験の段階であるが、全病棟に展開された場合には、作業効率が飛躍的にアップする可能性がある。効率がアップすれば、従来は医療上必要な最低回数に抑えられていた1日の血圧測定回数を増やすことができるため、こまめなデータ収集ができ、データ収集量も大幅に増加させることが可能となる。

 帝京大学病院では、コンティニュア準拠の血圧計を利用した実証実験の第2ステップとして、外来での問診時の血圧測定への適用拡大を検討している。現在は、紙の問診票に患者が手書きで回答する際に、測定した血圧データを手書きで記入。それをスキャニングして、医師が診察時に参照する。実験では、問診票自体をタブレットPCに表示して患者が回答・入力し、その際血圧データも自動入力されるようにしようという試みである。

ベッドサイドで収集するデータ活用が飛躍的に進む

医療情報システムセンター助教の水谷晃三氏

 今回の実証実験は、まず血圧データ収集のオンライン化からスタートした。しかしこれからは、他のデータ収集に関してもオンライン化を進めていく計画だ。たとえば、ベッドサイドでの情報収集に限っても、体温、体重、血糖値、患者の行動記録の収集・蓄積が可能で、これが実現すれば医療上のデータ活用の可能性が大きく広がるという。

 現在、これらのデータ収集は完全にオフラインで行われている。自動化され簡単にデータ収集できる仕組みが実現すれば、医療現場にもたらすメリットは大きい。取得するデータの種類と量が増加すれば、今まで難しかったトレンド解析ができるようになるからだ。

 「例えば、心不全患者の体重変化は常に監視すべき重要な指標ですが、利尿剤で急に体重が減少した場合など、人間の目で変化をとらえて判断を下すには、それなりの臨床経験が必要になります。しかし、過去のデータが豊富に収集されていれば、さまざまな工夫ができます。たとえば、体重変化の勾配が変化のトレンドの上位5%以内の場合、システムがアラートを発するなどの、判断支援機能が考えられます。また、糖尿病患者にとって重要な指標である血糖値を、1日数回計測して自動的にグラフ化すれば、病院側だけでなく患者自身でも状況を的確に把握できるでしょう。その意味で、自動化して容易に大量のデータを収集できるようにすることは、データの有効活用上大きな効用があるのです」(澤氏)。

 入院患者の睡眠パターンや病棟での歩行記録の有効活用も考えられるという。データを蓄積・分析することで、入院環境の改善やケアプログラム作成に活用できる。実は、就寝中の患者の睡眠と覚醒のリズムを測定し、記録・分析・表示するシステムはすでに医療用ベッドメーカーが製品化しており、無線・有線LAN経由でPCへのデータ送信も可能である。しかし、独自規格を採用しているため、データを医療情報システムに取り込むためのインタフェース開発が必要で、コストと時間がかかる。仮に、こうしたシステムがコンティニュアのような標準規格に対応すれば、医療情報システムとの相互接続・相互運用性が向上し、連携コストも大幅に下がるため、システム連携とデータ活用が促進される可能性は大きい。

コンティニュアに興味を示す技術系の学生も

 実は水谷氏は、帝京大学理工学部のヒューマン情報システム学科で教鞭を執っている。先日、医療情報システム分野の特別講義で、PHR(Personal Health Records)に関する講義を行った。その際にPHRに自動でデータ登録する最適な仕組みとして、コンティニュアを紹介したところ、多くの学生が興味を示したという。

 「医療機関でコンティニュアが有効利用できるという視点で、実証実験のシステムを実演しました。特別な知識がない学生でもすぐに使いこなすことができ、PHRのデータ収集にはコモディティ化したデバイスを利用できることが実証できました。理工学部の学生にも、ヘルスケア分野でのコンティニュアのような標準規格や、それに対応したデバイスの必要性が伝わったようです。標準化された技術を組み合わせることによって医療ITの世界に革新的な変化をもたらすことに、技術者を目指す多くの学生が興味を持ってくれれば、と思います」(水谷氏)。


■病院概要
名称:帝京大学医学部附属病院
住所:東京都板橋区加賀2-11-1
病床数:1154床(一般:1107床/精神:47床)
主な承認指定:特定機能病院/救命救急センター/総合周産期母子医療センター/がん診療連携拠点病院/救急医療機関指定/災害拠点病院/臨床研修指定病院
Webサイト:http://www.teikyo-u.ac.jp/hospital/