加藤 しかし、法律は本来、国民を守るために定められているものである。第1回で触れたように、設計者の身の安全を守るという側面はありつつも、最低限守るべきことを定めているのが法律である。その適用を除外されるような手法がまかり通っているのは、いかがなものか。
こうした例からも、現在の太陽光発電分野全体が、過度に利益を重視するあまり、安全軽視に陥っているように見える。20年間は使い続ける発電システムなのだから、そこは疎かにしてはいけない。
吉富 適用法の境界があることを、発電システムや関連部材を販売している企業は、顧客に説明しているのだろうか。
建築基準法での規定を示し、それに対して、建築基準法の適用の除外となる仕様に変え、電気事業法の適用になった場合の規定を示して、コストは安くなる一方で、安全性は下がるということを、常識として伝えておく必要があるはずである。
――その結果、建築基準法の適用を望む発電事業者も出てくるだろう。
吉富 しかも、先ほど紹介したのは、法律として定められている建築基準法と電気事業法による比較である。これ以外に、建築学会の規定がある。建築学会が、社会に許容されうる基準を想定して定めたものである。
先ほどの建築基準法では56.4kN、電気事業法では25.6kNとなる例に、この建築学会の規定を適用すると79kNとなる。電気事業法では、建築学会の規定の1/3以下になっている。
加藤 工学的安全と、法的安全と、経済的安全の間で、これだけの差が生じている。
吉富 得られる耐力の回答が三つもある上、どれを適用するのかの判断は、当事者に委ねられている。そのことによって生じる懸念を、専門家が指摘しないこと、あるいは、専門家でも理解していないことを、わたしは問題視している。
本件でも、第3回で紹介した例と同じように、ここまで調べるのに、約3日間を要した。施工業者にとって、それだけの時間が与えられれば、調査ではなく住宅用太陽光発電システムの設置工事に充てたくなる心情は理解できないこともない。その分だけ儲かる訳だから。
加藤 一般的なイメージとして、構造的な面、電気的な面も含めて、太陽光発電システムには、何故か、それほど危険なものではない、安全なものだという「神話」のようなものができている。
良いイメージを持ってもらえること自体は、喜ばしいことだが、せっかくの良いイメージに実態を一致させるように、正しい安全性への配慮を当たり前のものとして、根付かせていかなければならない。