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九州大学教授の康東天(かん・どんちょん)氏
九州大学教授の康東天(かん・どんちょん)氏
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医療情報データベース基盤整備事業の概要
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 5月31日~6月2日まで、北海道函館市の函館国際ホテルで開催された第16回日本医療情報学会春期学術学会(主催:一般社団法人 日本医療情報学会)では、初日、医療情報の標準化についてのチュートリアルが開催された。

 現在日本では、医療情報の二次利用を目的に、厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構の主導で、日本版センチネル・プロジェクトと呼ばれる「医療情報データベース基盤整備事業」が進んでいる。主として医薬品の副作用を把握する仕組みを構築ことを目的に、電子的な医療情報を収集する医療情報データベースを構築し、将来全国で1000万人規模の医療情報データベース構築を目指している。

 だが、実際に多くの医療機関から集めた医療情報を二次利用するには、前提として情報の標準化が必須となる。臨床検査の専門家である九州大学教授の康東天(かん・どんちょん)氏が、臨床検査に関連した情報の標準化を進める過程で浮かび上がったさまざまな問題について語った。

 康氏は、6つの大学病院(東京大学医学部附属病院、浜松医科大学医学部附属病院、香川大学医学部附属病院、九州大学病院、佐賀大学医学部附属病院、北里大学・北里研究所附属病院)を対象に、基盤整備事業に関連してJLAC10(ジェイラックテン)コードを共通化する試みを進めた。なおJLAC10コードとは、日本臨床検査医学会が分類した17けたの臨床検査コード。分析物5けた、識別4けた、材料3けた、測定法3けた、結果識別2けたで構成されている。

 康氏は「検査値を二次利用するためには、原則として比較可能な検査値に同じコードを付与する。ただし、そのまま付与できる項目は少ない」と語る。例えば、腫瘍マーカーなど免疫測定項目は、利用する測定機器によって測定法が異なる上に、同じ測定法でも試薬が異なると測定値が大きく異なるという。「この場合、測定法を統一しただけではデータベースに保存して2次利用できない。従って、試薬ごとに別のコードを付与することで初めて、データベースとして解析が可能になる」(康氏)。

 測定法が同じでも、データ共有化が難しい項目もある。例えば、血液の凝固検査は、測定法が同じ(凝固時間法)でも測定機器と試薬の組み合わせで結果が異なる。また現状では、凝固時間測定法には一つのコードが付与されているが、実際には散乱光検出方式、凝固時間法など異なる測定方法を包含しているという。「使う試薬によっても異なる結果が出るため、測定機器ごと、試薬ごとに異なるコードを振らないと、正しいデータベースにはなり得ない」と康氏は言う。

 このほか、大学ごとに同じ検査の分類方法や粒度が異なっていたり、同じ測定法に対して試薬メーカーごとに違うコードを割り当てていたりと、修正は多岐に渡ったという。結局、1100近い項目の中で、データをそのまま利用できたのは10%程度。九大で訂正した後共有可能なものが7%。83%ものデータが、コードを再設定するなど標準化作業が必要という結果となった。康氏は「大学という基幹施設間でも、標準化はこのレベルでしかないということ。今回は九大病院の検査部がボランティアで、日常検査の終了後夜中まで取り組んでくれたが、たった6施設なのに非常に負担の大きい作業となった」と説明する。

 今後の標準化については、「定常的にコーディングを維持管理するには、大学のボランティアでは無理。専門組織を設立・運営するための、マンパワーと資金が必要」(康氏)と断言。康氏は、臨床検査項目の標準マスターを運用する組織を立ち上げて、日本臨床検査医学会主体でコーディング原理の再構築などを進め、日本医療情報学会が中心となって臨床検査項目標準マスターの設定やメンテナンスなど運用体制の整備を進める、という内容を提案した。