医農工連携人材育成事業連続講座の第3回が、昨年10月3日に徳島市で開催された。産業技術総合研究所(産総研)四国センターが主催し、経済産業省四国経済産業局が共催する講座。手続きの煩雑さなどの理由で敬遠されがちな薬事法の対象となる医療関連事業に、民間企業の参入を促そうとする試みである。この回は、工学を医療に応用して有用な機器開発につなげようとする「医工連携」をテーマに、発表が行われた。
産業総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門主幹研究員の山根隆志氏は、「機械工学が生きる医療機器技術」と題して、人工心臓や人口関節、流量計の開発について解説した。このうち人工心臓について、産総研では以下の開発を進めているか、あるいはこれまで手がけた経験があるという。
(1)手術後4週間まで使用できるモノピボット遠心ポンプ
(2)手術後半年の入院で使用できる動圧軸受遠心ポンプ
(3)長期埋込み補助人工心臓用の動圧軸受軸流ポンプ
(4)退院患者用の超小型質量流量計
山根氏は、画像を大量に用いて開発経緯や課題解決などについて詳しく解説した。例えば、開心術中・術後補助循環に使用するMERAモノピボット遠心ポンプ(2011年1月薬事承認を取得)について、その適用拡大の実験を実施。「補助循環ポンプではあるが、4週間程度であれば連続使用できる可能性がある」(山根氏)と指摘した。
またレクチャーの最後に、「医薬品と違って、医療機器はその多様性に特徴がある。しかもそのリスクとベネフィットは、使い方次第で大きく変わる。そこで開発・審査・安全に対する客観的な物差しとして、レギュラトリーサイエンス(評価科学)が必要」と強調。同氏が世話人を務める「医療機器レギュラトリーサイエンス研究会」を紹介した。
続いて、香川大学微細構造デバイス統合研究センター長・教授の石丸伊知郎氏が、同センターでの開発事例を紹介した。まずMEMS(Micro Electro Mechanical Systems;マイクロマシン、シリコンなどの基板の上にセンサーや電子回路などを集積した電子と機械を融合したデバイス)関連の案件を紹介した。
微少サンプルでの測定を可能にするフィルターSPRチップ、DNAをつまむナノピンセット、ゲノムDNAの凝集を解消し伸ばす・つまむ・巻き取るなどの操作を可能にするゲノムDNA1分子解析と細胞刺激マイクロチップ、再生医療などに利用できるバイオマイクロ・ナノシステムやマイクロ・ナノシステム用金型の加工技術、物理的凹凸や温度差を計測する高感度触覚デバイス、などである。「例えば高感度触覚デバイスは、触診データの保存や内視鏡手術器具の先端部分に利用するなど、医療機器への応用が考えられる。将来は、人間共存型ロボットの指先などにも活用できる可能性がある」(石丸氏)。
続いて、光を用いた無侵襲血糖値センサーについて説明した。「光を用いた早期診断計測技術を利用すれば、針を刺して出血させる必要が無くなるので、人に優しい計測方法と言える」(石丸氏)。従来の近赤外光による無侵襲血糖値センサーは、血管領域以外の生体成分を計測してしまう問題があった。この技術を利用すると、結像型2次元フーリエ分光方式を利用して、焦点の合った部分のみに計測を限定できるので、測定精度が向上するという。