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医療機関のBCPを討議したシンポジウム
医療機関のBCPを討議したシンポジウム
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 医療機関の事業継続計画(BCP)はどうあるべきか――。東日本大震災で医療機関が被災したことを受けて、第31回医療情報学連合大会では学会企画としてBCPに関するシンポジウムが開かれた。被災地で医療提供を継続した石巻赤十字病院の災害対応の実例紹介とともに、災害に対する病院情報システムのあり方、医療継続をどう維持するかなどが討議された。

 シンポジウムの冒頭、座長を務めた東京医科大学教授の松村一氏と東京大学大学院准教授の山本隆一氏が、シンポジウムの狙いである医療・医療情報におけるBCPの普及や、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の中でのBCPの位置付けなどについて述べた。

 まず松村氏は、「東日本大震災の被害を受けて、医療機関のBCP策定が火急の課題になっている」と強調。ライフラインの途絶や医療設備の損傷という状況下でも、医療業務の継続が求められているにもかかわらず、「2009年の内閣府の調査ではBCPを策定している医療機関は、全体の5%にとどまる」と指摘。BCPに対して「関心がある」という現在の状況から、「取り組む」という方向へ進展させなければならない、と訴えた。

 2007年3月に改訂した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第2版」(厚生労働省)で、初めてBCPの概念が盛り込まれた。その責任者だった山本氏は「当時はレセプトオンライン請求が始まって医療機関のネットワークへの依存度が高まり、サイバーテロへの対応を想定したBCPだった。医療のBCPの重要さを指摘し、その中で医療情報システムの対応を考えおくべきとしたが、『医療のBCP』とは何かはまったく触れられていない」と振り返った。

 そして、「医療のBCPは、システムのBCPの前に医療情報そのものBCPが必要。医療情報のBCPは、医療が情報処理を主体とする行為である以上は常に考慮されなければならない。必ずしも医療情報システムに依存しないし、あるいは依存しなくても最低限の事業継続が保たれるべきものだ」と指摘した。

大規模・広域被害に強い地域連携システムが必要

 宮城県石巻市で東日本大震災の被害を免れ、災害拠点病院として災害医療を担った石巻赤十字病院。院長の飯沼一宇氏は、以前から策定・見直し、訓練を繰り返してきた災害対策マニュアルに従い、地震発生5分後に災害対策本部を設置し、レベル3(通常の診療を中止、災害医療に専念)を発動したと説明。病院情報システムや医療機器の被害は軽微であったことから、紙による災害用カルテに切り替えたものの、システムとの併用により継続的に運用できたと語った。

 しかし、1週間で4000人の被災患者が押し寄せ、しかも大多数がかかりつけ患者でなかったため、システムによる患者ID発行ができず、オーダリングシステムをはじめ、検査機器への患者情報の手入力、PACS運用などに問題が生じた。「現場のクラークの判断で、臨時の診療エリアや病棟エリアなど各エリアに専任のID係を配置し、手作業による仮ID発行でシステムとの併用を維持した。システムでの正規IDが発行されず、患者情報がPACSに転送されないため、検査画像はフイルム運用で乗り切った」(飯沼氏)と述べた。

 また、医療機器の被災により検査に制限があったこと、災害応援医師にもシステム活用をしてもらうため災害専用のオーダー画面を急遽作成して対応したこと、などを話した。実施可能な検査オーダーを一画面に集約し、検体検査などをセット化してオーダー操作を簡略化できるインタフェースを開発し、初めて操作する医師でも容易に対応できるよう工夫した、と説明した。

 大規模かつ広域被害をもたらした東日本大震災を経験した飯沼氏は、「当院で対応しきれない患者さんに対して、搬送可能な医療機関を探し出すのに非常に苦労した。大地震や津波などによる被害が広範囲に及び、長時間にわたってネットワークが遮断されることを想定した、二次医療圏を超えた災害に強い地域連携システムを構築する必要があると痛感した」と語った。