医療情報や病院経営をテーマとした講演や勉強会を行うCIO研究会(第9回)が、12月9日、東京都内で開催された。病院情報システムのクラウド化をテーマに福井大学医学部附属病院の医療情報部副部長 山下芳範氏が、ビッグデータを取り扱う際のアーキテクチャーをテーマに徳島大学病院の病院情報センターセンター部長 森川富昭氏が、それぞれ講演した。
山下氏は、福井大学医学部附属病院で構築・運用している病院情報システムをクラウド化(サーバー仮想化、デスクトップ/アプリケーション仮想化)した経緯、システム概要、クラウド化による効果などについて述べた。その中で山下氏は、クラウド化の目的は、複合システムの増大や運用の変化に柔軟に対応できるシステム構築、システムの投資コストの最適化、運用管理コストの削減、低炭素への対応とし、効果としては「イニシャルコストの削減効果は小さいものの、運用年数全体を通してのコスト削減を期待できる」と述べた。
また、ネットワークの仮想化についても紹介、特に無線LANの仮想化・シングルチャネル化によって、無線周波数帯の有効利用でユビキタス医療のためのインフラ統合が可能になると解説した。
一方、森川氏はビッグデータを蓄積・利用する場合のアーキテクチャー、特に生涯カルテであるEHRを構築する際のアーキテクチャーはどうあるべきか、について講演した。強調した点は、標準化コードを使うことを大前提とし、データの二次利用を踏まえたシステムアーキテクチャーにすべきこと。
「現在の日本の病院情報システムは、医者にとって利用価値のあるものではない。発生源で入力された臨床データはコード変換され、医事側が利用するためのシステムになっている。データの二次利用を考えたとき、経営者側にとっては有益な情報として存在するが、医者が分析したいデータとして蓄積されていない」(森川氏)。そして、医療の質を高めるという視点で臨床データを分析可能にし、経営分析も可能にするためには、「診療現場の発生源データ、医事側のデータのそれぞれでDWHを構築し、BIツールで利用できる仕組みを持つことが重要だ」と述べた。
また、もう1つの問題は電子カルテが標準化されたコードを使用しておらず、メーカー間の相互運用は不可能なこと。「電子カルテを乗り換えることもできないし、医療連携を推進する際にも壁となっている」とした。