一方、現在各地で構築・運用されている地域医療連携システムにおける課題も指摘した。ほとんどが連携する医療施設で患者情報の公開・閲覧をベースとした患者連携のためのシステムで、Disease Management(疾病管理)を目的にしたものは皆無に近いという。森川氏は「先進各国の医療課題は慢性疾患対策で、そのためにはEHRが必要。EHRで重要な点はDisease Management、という考え方が世界的な潮流となっている。日本の地域医療連携においても、患者連携だけでなく、診療情報を蓄積し、疾病管理・分析できる仕組みを持つ必要がある」と強調した。
そして、そうした考えに基づいて構築している徳島大学病院を中心とした地域EHRの事例を紹介した。これは、医療機関や保健機関の診療・保健データを集積して、地域状況や疾病構造を把握し、疾病群に対して医療介入を可能にするシステム。第1段階としては病病連携・病診連携で、患者連携をベースとした診療情報提供書のオンライン送受信、紹介患者の検査結果・所見の相互参照を実現。第2段階として、診療データや保健施設の特定健診データを収集・一元化して、介入が必要な人に対して循環型医療連携を可能にする仕組みを構築する。
具体的なシステム構造としては、病院情報システムから診療データを標準化コードによるSS-MIXにはき出して病病連携で利用する仕組みと、各医療機関のSS-MIXのデータとレセプトデータを名寄せデータベースで一元化した上で疾病構造や地域連携データの分析を可能にするコホートデータベースからなるもの。SS-MIX(あるいは電子カルテ)を持たない診療所は、レセプト電算の処方・処置データを連携情報、コホートデータベースの両方に利用する。
「病病連携・病診連携のシステムはID-Linkを基本とするが、SS-MIXとレセプト電算のデータを医療機関ごとに収集・名寄せしてコホートデータベース化すれば、Disease Managementが可能なEHRを作れるのではないかと実証実験を進めている」(森川氏)。
コホートデータベースは、医療機関や保健機関のデータが集積されるためビッグデータとなる。森川氏は、「そのアーキテクチャーとしてリレーショナルデータベースシステムを採用すると、数年後ぼシステム更新に初期投資に匹敵する費用がかかる。データは増加の一途をたどることになるので、システム拡張が低コストかつ柔軟にできるアーキテクチャーが必須だ」と強調。徳島大学の地域EHRでは、オープンソースのCassandra/Hadoopを採用している。
森川氏は最後に、コホートデータベースのような仕組みであれば、糖尿病などの重症化・合併症化モデルの分析ができるなど疾病管理が可能になることを説明、聴講しているメーカー各社に「こうしたシステムの開発をお願いしたい」と話して、講演を結んだ。