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恵寿総合病院 理事長の神野正博氏
恵寿総合病院 理事長の神野正博氏
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社会医療法人生長会理事長の田口義丈氏
社会医療法人生長会理事長の田口義丈氏
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聖隷浜松病院院長補佐・てんかんセンター長の山本貴道氏
聖隷浜松病院院長補佐・てんかんセンター長の山本貴道氏
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 キヤノングローバル戦略研究所が、12月14日に都内で「セーフティネット医療福祉事業体の成長戦略」と題して行ったシンポジウムでは、先進的な地域包括ケアを提供している3つの民間医療法人が登場。その経営体制や取り組み、今後の展開について講演した。

 最初に登壇したのは、石川県七尾市を拠点とする社会医療法人財団 菫仙会 恵寿総合病院 理事長の神野正博氏である。社会福祉法人 徳充会も経営しており、日本で唯一介護施設から急性期の病院まで、ITをベースに患者情報を一貫して扱っている法人だ。

医療と地域は運命共同体、ITを駆使して患者本位のサービス提供

「医療産業が他の産業と大きく異なるのは、地域密着型である点だ。どんなにすばらしい病院でも、通える範囲になければ患者が利用するのは難しい。医療と地域は運命共同体で、医療が崩壊すれば地域が崩壊するし、逆もまた真実。われわれが本拠地とする石川県は、人口の減少率、高齢化率が高い。少子高齢化時代を生きる世界中の医療機関のトップランナーとして、いろいろ知恵を絞っている」と神野氏は語る。

 恵寿総合病院を中核とする「けいじゅヘルスケアシステム」は、診療所、老人保健施設、デイサービスセンター、特別養護老人ホームなど、幅広い医療介護事業を展開(合計1171床)。医療制度、介護保険制度、福祉制度、保健制度といった各制度を結び、地域住民の健康のためのケアを提供している。

 経営ビジョンは大きく3つある。1つめは医療・介護・福祉・保健のシームレスな連携による、アフターサービスの充実した「面倒みのいい病院」の実現。2つめは、患者、地域住民、医療機関、行政、学校、医療職から選ばれる病院の実現。3つめは、地域連携、雇用確保、地域振興などの推進で実現する徹底的な地域密着だ。

 情報システムの利用も進んでいる。「けいじゅヘルスケアシステム」には広域イーサネット専用線網を敷設し、そこにサーバー49台、クライアント757台を接続している。ネットワーク内では、1患者1IDを実現している。また、ITを苦手とする院内外関係者のためにコールセンター「けいじゅサービスセンター」を設置し、患者からの問い合わせや相談はもちろん、情報の代行入力も受けつける。「多施設、多制度にわたる患者情報・患者サービスを、一元管理するための手段として実現した」(神野氏)。

 さらにPHRの実現という観点から参画したのが「どこでもMY病院」プロジェクト。これは、過去の医療情報、健診結果情報、健康関連情報などは、患者個人が所有・保管するのが最善なのではないか、という仮定に基づいて構想された。2010年度の経済産業省「医療情報化促進事業」として採択された。具体的な実証事業としては、高齢者の投薬情報や血圧データなどを、USBメモリやCDなどに収めて管理することなどを試行した。

「地域の一番店になること」を目標に努力する

 社会医療法人生長会は、大阪府南部に施設を持つ民間医療法人だ。この組織も社会福祉法人 悠人会を有し、府中病院、ベルランド総合病院を主要病院として、クリニック、療養型ホーム、老人保健施設、特別養護老人ホーム、保育所などを幅広く運営している。社会医療法人と社会福祉法人は経営が一本化されており、給与体系も同一である。自ら業務改善を行うという運営方針から、独自に調理センターや看護学校を有している点がユニークだ。

 理事長である田口義丈氏は、「このような医療福祉複合体となったのは、1955年に府中病院開設以来今日まで、環境変化に適応しながら事業を拡充してきた結果」と語る。事業計画に基づく運営を重視しており、職員にヒヤリングを行って個々に目標設定を行い、積極的な運営への参画を促している。現場の職員同士の情報共有を深めるために、各部門で「院内伝達紙」を用意。毎朝の朝礼時に配布して、病院内の状況をすぐ把握できるよう腐心している。業務改善を狙ったQC活動「SC(サービスクリエーション)21活動」も展開する。

 2009年から2011年にかけて掲げた中期目標は、「私たちの施設が各医療福祉圏域で地域の一番店になること」。実現のために、医療、介護、住まい、在宅ケアの一体施設「ベルアンサンブル」を構想。2012年3月に開設が決まった。並行して府中病院での健診機能を拡充し、2013年には指定管理者として運営が決まった阪南市民病院の新築工事が完成。2014年には、高度医療への注力を目的にベルランド総合病院の病床数を522床から477床へと減らす計画も進めている。

 「一人の患者が複数の疾患を抱える超高齢化時代を迎えて、医療や介護には複数サービスの連携強化が求められる。また、心臓、脳卒中、小児、外傷など『急ぐ医療』の拡充も重要だ。同一医療圏内の公立病院と私立病院が、競争に直面することになるだろうが、統合も視野に入れた形で地域包括ケア提供が実現できればいい」と、田口氏は構想を語った。

進取の気性の土地柄に合った先進サービスを提供

 最後に紹介されたのは、社会福祉法人 聖隷福祉事業団の事例である。静岡県浜松市を本拠地とし、医療を中心に、福祉、保健、介護サービスなど、全国114施設で235事業を展開している。登壇した同事業団の総合病院、聖隷浜松病院院長補佐・てんかんセンター長の山本貴道氏は、「われわれの経営特性は、先見性、先駆性、開拓性、即応性、独自性にある。浜松という土地柄は新しいもの好きで、“人に負けるな”というのが合言葉になっており、それが反映されている」と語る。

 聖隷福祉事業団での機能垂直統合事例は、1970年代後半の総合周産期母子医療センターの開設に始まる。県内初の取り組みで新生児救命率が向上したが、障害のある小児の長期入院施設不足が露呈した。そこで「聖隷おおぞら療育センター」を拡充し、NICU患者を移転する場所を確保した。

 もう一つの例は、急性期医療の脳卒中センターだ。年間約700人が来院し、1~2カ月入院するため、すぐ満床になってしまう。そうした折、浜松市が経営していたリハビリテーション病院の指定管理者となり、見事病院再生に成功。この病院を回復の進んだ患者の受け皿として活用できるようになったことで、脳卒中センターにも余裕が生まれた。このほか、ホスピス、ヘリ搬送システム、フィリピン人看護師・介護士の受け入れと教育など、早い段階で実施している。

 「専門性、社会線、地域性、時代性、経済性は、社会福祉法人としての使命であり、聖隷福祉事業団の理念でもある。『聖隷があるから安心』と言ってもらえる存在となり、地域住民が安心して生活できる社会の一要素になることを目指している」と山本氏は語った。