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キヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘氏
キヤノングローバル戦略研究所の松山幸弘氏
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 12月14日、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)主催のシンポジウム 「セーフティネット医療福祉事業体の成長戦略」が、東京都内で開催された。地域包括ケアをどうすれば実現できるのか。同研究所の研究主幹である松山幸弘氏は、視察した米国の統合ヘルスケアネットワーク(IHN)の事例を、その成功例の1つとして詳細に解説した。CIGSは、政治、経済、環境、社会情勢に関する調査・分析・研究・提言を行うシンクタンクである。

地域包括ケアは連携ではなく垂直統合がカギ

 セーフティネットを専門領域の一つとする研究主幹の松山氏は、「医療イノベーションには2方向ある。1つは医薬品・医療機器の開発・製品化、もう1つは医療提供体制改革。政策として優先すべきなのは後者だ」と主張した。

 厚生労働省は、医療改革の柱として「地域包括ケア」を提唱している。これは、市町村レベルで医療機関や介護施設の地域連携を行い、その上位に人口20~30万人単位で基幹病院を設置、その上位の都道府県レベルで救命救急や高度医療など広域ニーズへの対応体制を作るというもの。以前から構想はあるが、なかなか実現しないのが現実だ。

「実現しない理由は、法人同士の連携が難しいからだ。望ましいのは、1つの事業体が垂直統合して医療、介護、在宅ケアなど複数の機能を持つこと」と松山氏は語り、その先進的な事例として米国バージニア州ノーフォークに本拠を置く医療事業体であるセンタラヘルスケアを紹介した。

 センタラヘルスケアは、センタラ・ノーフォーク総合病院を中核とし、半径130キロメートルの医療圏に約120の医療関連施設を保有する非営利の複合事業体。総合病院と同じ敷地内には、別法人である小児専門病院や病院施設を持たない医科大学があるが、機能の重複を上手く避けて、互いに補完し合っているという。

 臨床研究と教育機能の拡充に力を入れており、全米トップ1%と?評価を得ている心血管研究所やがん研究所、脳神経研究所を有し、同じ敷地内にある医科大学やバージニア州内の専門医グループと業務提携している。「がん医療部門の収入だけで、年間400億円を超えている。日本の国立がんセンターの診療収入は年間320億円程度」(松山氏)。

 センタラヘルスケアは、収支構造にも特徴がある。営業利益率は、毎年5%程度の水準を維持している。例えば傘下に医療保険を販売する事業会社を抱えており、地域住民200万人のうち40万人強が加入している。非営利のヘルスケアネットワークではあるが、1000億円以上保有している資金を株式や債券に投資して、資産運用を行っている。一方で、同法人は慈善事業を展開しており、営業利益額とほぼ同じ金額を投入している。「非営利の医療法人として法人税を免除されているが、法人税相当以上の金額を地域に還元している」(松山氏)というわけだ。

これからの医療界で成長するのは医療事業複合体

 センタラヘルスケアは、医療ITの活用にも積極的だ。250億円を投入して、2006年から順次電子カルテを導入。臨床・経営の意志決定支援システムや他の医療機関との比較によるベンチマーキング、地域医療保険設計のインフラとなるデータ解析、などを進めている。また、地域包括ケアのインフラである地域全体をカバーする医療情報システム「eCare」を展開している。この投資コストを、外来、介護、在宅のサービス拡大で回収する計画で、、これまで重点的に投資してきた急性期医療から、経営資源配分を大きくシフトさせている。

 センタラヘルスケアは、医療圏の拡大という新しい成長段階に入っている。この2年、連続して全米の地域ヘルスケアネットワークの中で最もマネジメントが優れていると評価された。それを受けて、周辺の中小規模のヘルスケアネットワークが参加を希望しており、これを受け入れている。ただ、拡大中の医療圏には別のブランド力ある非営利ヘルスケアネットワークが存在しており、今後競争が激化すると予想される。

 「日本は、少子高齢化の進行により、これから単独事業形態の医療機関は苦しくなっていくが、複合体は成長すると考えられる。センタラヘルスケアに参加要望が多く寄せられているように、日本でも優れた地域包括ケアを提供する医療法人に対して傘下に入る医療法人が増えていくだろう」と松山氏は予測する。その上で、国公立病院の指定管理者に経営の優れた民間医療事業体を指定する(公設民営化の推進)、複数の国公立病院を束ねて広域独立行政法人化を進める、大学附属病院を大学から切り離し地域ヘルスケアネットワークの中核病院として育成する、といった政策提言を行って講演を締めくくった。