FileMakerカンファレンス2011(11月9~10日)のメディカルトラックでは、「医療情報システムの情報をiPadで俯瞰する、二施設での試み」と題されたセッションが行われた。国立病院機構 大阪医療センターの岡垣篤彦氏(産婦人科医)が、パッケージ型電子カルテシステムと連携するFileMakerによる診療支援システムを紹介した。
大阪医療センターの岡垣氏は、冒頭で「近年のコンピュータの進歩により、世界中でクラウドサービスが利用できるなど不自由はない状況。だが、いまだに使いにくいコンピュータ製品が2つある。その1つが電子カルテだ」と指摘し、来場した医療関係者の笑いを誘った。電子カルテは誕生して10年以上経過したにもかかわらず、医師が記載する部分の閲覧性・操作性にあまり進歩がなく、改良を依頼しても長い開発期間と高額な費用がかかる、システムの安定性に悪影響があるといった理由でユーザーの要求を満たせていない、など多くの医療情報関係者を悩ませている問題を指摘した。
岡垣氏は、こうした硬直した電子カルテ開発にかかわる課題は「開発手法に根本的な問題があるのではないか」と疑問を投げかけ、システムの主要な開発手法であるウォーターフォール型とアジャイル型の利点・欠点を紹介。ベンダーの電子カルテ開発が、ウォーターフォール型手法一辺倒で選択の余地がないことが問題の一因、と強調した。そして、「病院全体で共有・活用すべき情報はエンタープライズアプリケーションに基づくもので、ウォーターフォール型で開発すべき。しかし、部門で効率よく運用すべきツールはワーキンググループアプリケーションであり、アジャイル型の開発が適している」(岡垣氏)と指摘した。
「アジャイル型を取り入れることが難しい場合の開発手法として、エンドユーザーコンピューティング(EUC)がある」と岡垣氏。「フットワークの軽いソフトウエア(FileMakerやAccess、VisualBasicなど)を使い、業務内容とプログラミングの両方を把握している個人が開発を主導する。開発工程管理が難しいという問題はあるが、自ずと反復型開発になり、現場の作業に即した質の高いアプリケーションになる。カルテは重要な診療ツールであり、手術器具や聴診器、内視鏡などのように操作性を重視しながら、医師や看護師の道具は自分たちで作るというスタンスをとっている」(岡垣氏)と、基幹システム(富士通製電子カルテシステム)の入出力ツールとして、FileMakerを利用して開発している背景を述べた。
具体的に開発したアプリケーションとして、眼科における電子カルテの欠点を補うツール、時間外救急の電子カルテ画面などを紹介。現在FileMakerによるプログラムは、36診療科で台帳が10種類、合計341のレイアウト(画面)があり、その総数は延べ6万5000項目(重複を含む)に及ぶという。
電子カルテの欠点を補うFileMaker、その利用法と評価を解説
岡垣氏は、電子カルテの入出力ツールとしてFileMakerを使用した効果の評価についても発表した。時間外救急の電子カルテツールを対象に、パッケージ型電子カルテのロールペーパー方式によるインタフェースとFileMakerによるカード型カルテインタフェースのそれぞれの記載内容を比較。主訴、現病歴、既往歴、身体所見、検査所見、評価、診療計画、説明告知に分けて記載が行われているかどうかを調査した。その結果、「記載文字数についてはFileMakerを入力インタフェースにすると記載量が約3倍に増加した。さらに記載内容にいて検証すると、特に既往歴、説明告知の記載が行なわれている率がロールペーパー型の2倍になっていた。結論として、記載内容の底上げ、記載量の増加、カルテの質の向上が見込まれる」(岡垣氏)と有効性を強調した。
また、iPadを業務支援系アプリケーションで利用する方法では、FileMaker Goの利用、Webアプリケーションの利用、デスクトップ仮想化による利用の3つの方式を紹介。「FileMaker Goを使う場合は、直感的なインタフェースでiPadに最適化した画面表示が可能だが、画面展開が少し遅いため、ポータルを少なめにする、スクリプトは簡潔にするといった工夫が必要。Webアプリケーションの利用は、ブラウザがあれば使用可能だがやはり少し遅く、動作が不自然になる傾向がある。仮想デスクトップインフラによる利用は、セッティング簡単で、電子カルテもそのまま動くが、仮想化のためのインフラ構築の投資が必要」(岡垣氏)と、それぞれの長所・短所を説明した。