画像医療システム産業界の発展と今後の方向性を議論するために発足した「JIRA 画像医療システム産業研究会」の第 1 回会合が、11月11日東京・全国家電会館で開催された。JIRAは、医療用の放射線機器や関連する機器、附属品などを供給する企業が加盟する社団法人である。
「今のままなら市場=パイは限られている」と経産省幹部
行政からは、経済産業省と厚生労働省の幹部が参加した。最初に登壇したのは、経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課課長の藤本康二氏。まず、経済産業省は第一義的に国民の生命を守る責任を負う厚生労働省とは異なり、市場拡大を考える行政機関であるという自らの立ち位置を明らかにした。その上で、“社会保障としての医療”を越えた領域に目を向けるべきだと訴えた。
「診療報酬制度、介護保険制度の中でビジネスを考える限りパイは限られている。また医療は計画経済的なため、フロンティアで何か始めようとすると、それをどう機能させるかの議論に時間がかかる。産業の発展を考えるなら、従来の枠組みの外にあるニーズをとらえて新しいイノベーションを提示し、市場競争原理の中でしかるべき対価を受け取れる世界を構築することが重要」(藤本氏)。
では、そのような取り組みにはどのようなものがあるか。藤本氏が提案したのは、医療・介護でカバーしていない保険外サービスの創出と日本医療の国際化という2つだ。
前者に関して、経済産業省が行っている実証事業の1つに、糖尿病重病化予防食の配食サービスがある。疾病管理の必要な人に対して、在宅できちんと考えられたレシピに沿った食事を毎日届けると同時に、実際に何をどのくらいの量食べたかというデータを事業者が医療機関に送信。担当医師は、診察の際にそのデータを見ながら患者にアドバイスする。事業者は、データ送信に関して利用者に対価を請求する。
「これでビジネスが成り立つのかという質問をよく受けるが、ビジネスとして成り立つ前提で価格を設定し、それに対して払ってもいいと考える人が利用すればいいと考える。全員が使う必要はなく、例えば2割の人にしっかり役立つならそれでよい。結果として、医療費や介護費用の削減にも効果があるはず」」(藤本氏)。
医療の国際化は、海外の患者に医療を提供することで、技術革新に必要な症例数を確保するとともに、日本の医療関連サービス・機器の海外での利用拡大を推進できるという点で利点がある、と藤本氏は言う。海外の患者を日本で受け入れるインバウンドと、日本の医療サービスを輸出するアウトバウンドがある。経済産業省は、「Medical Excellence JAPAN」という医療の国際化支援組織プロジェクトを進めており、ここを中核に外国人患者受け入れや受け入れ医療機関や分野の発信、海外医療拠点整備支援、国際医療通訳育成支援など、医療の国際化で求められる業務を提供している。
2011年10月現在、インバウンドの問い合わせは約940件、医療情報交換は約250件あり、30人の患者が日本での治療を完了し帰国、という成果を挙げている。「日本の医療関係者は誠実で技術が高い、と好評」(藤本氏)。アウトバウンドにおいても、ロシア・モスクワの病院内にジャパンメディカルセンターを発足させ、日本の医師が内視鏡検診を指導に行くなど、現在8つのプロジェクトが進行中だ。
「重要なのは、自分たちのサービスに対して自分たちで値段を決められるということ。医療の国際化は、サービスにどのくらい価値があるのかを考える非常にいい機会になる。これからは、製品やサービスを開発すると、その対価が得られてビジネスとして発展し、それを通じて社会に貢献できる、という図式を自分たちで描かなければいけない」と藤本氏は強調した。
医療機器業界が直面する課題と解決策は?
続いて登壇したのは、厚生労働省 医政局 経済課 医療機器政策室 室長 関野秀人氏。 同氏は、思うように製品開発が進まない日本の医療機器業界の課題を4つ指摘した。
(1)基礎技術(シーズ)を活用して、臨床試験(治験)を行う医療機関の体制が未整備である
(2)企業主体で実用化研究を行うだけの体力を持つ企業がない
(3)革新的医療機器の有効性・安全性等の審査に必要なデータの
取得方法(試験方法)やその要求水準が不明である
(4)企業が製造・販売など経済活動を行うために必要な人材を確保することが困難
これらの課題に対して関野氏は、個別に解決案を示した。まず(1)は人材、体制、経験の蓄積を得るためのテコ入れを、一定の期間に集中的に行わなければ実現できない、と指摘。「厚生労働省が、予算の確保も含めて、臨床現場や医療機関を対象とした開発拠点整備を徹底的してやっていく」と明言した。(2)に関しては、医療機器は複合的な技術要素があり、個々の企業が自前で研究を行うには限界がある。複数の企業と大学などの研究機関がコラボレーションする必要がある、と関野氏は推測している。
(3)は難題で、革新的な製品であればあるほど、有効性や安全性に関して何をゴールとすべきかが、審査側にも開発者にもなかなか見いだせないのが現実だ。「理解できないものを理解する努力に時間を浪費するより、その時点の科学水準に照らして担保できる安全性を確認できればいい、とするのも一つの考え方ではないか。実際に使用してどの程度病気の予防・診断・治療に有益かを確認していく、という方法も考えたい」(関野氏)。
こういう場合、日本では“何かあったときの責任はどうするのか”という議題ばかりがクロースアップされる。関野氏は、新聞のコラムで読んだ話を引き合いに出した。フランスにローマ時代の水道橋の遺跡があるが、そこには手摺りがなく転落の危険もある。「もし日本だったとすると、事故が起きた場合施設管理者が責任を免除されることは極めて稀だろう。しかしフランスでは、自ら判断した結果には一定の責任を負わなければならないという『危険への接近』の法理が広く浸透しており、手摺りがないことにとがめはないという。
「医療機器においても、日本では認可したということで国が保証をする、責任を取るということになっている。しかし応分の責任というものがあるとすると、どれぐらいが妥当なのか一度真剣に議論してみたい」と関野氏は会場に問いかけた。
(4)の人材不足については、産学官の交流が不可欠だと断言した。医療機器に対する理解を深めるために、大学などの研究機関が学生に意識させるような教育体系を構築することが望ましい。「大学などの研究機関だけで完結するのは難しいので、産業界、行政を含めて密接な交流を継続的に行うことが肝要だ」と関野氏は付け加えた。
なお業界が新規開拓すべき分野として、経済産業省は保険外サービスや世界市場への進出を薦めたが、厚生労働省は在宅医療を提案した。平成24年度予算の概算要求においても、在宅チーム医療を担う人材の育成に8.7億円、実施拠点となる基盤の整備に89億円、個別の疾患などに対応したサービスの充実・支援に29億円、の獲得を目指している。関野氏は「厚生労働省としてもこれから充実させていきたい分野なので、是非挑戦して欲しい」と出席者に呼びかけていた。