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独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長 森山紀之氏
独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長 森山紀之氏
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グループ討議の風景
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 第1回「JIRA 画像医療システム産業研究会」が、11月11日、東京・全国家電会館で開催された。JIRAは、1967年に発足した社団法人 日本画像医療システム工業会の略称で、現在、放射線機器・画像医療システムなどを供給する177社が会員となっている。この研究会は、画像医療システム産業界の産業振興と今後の方向性模索を目的に企画された。会場では、医療の現場、行政、加盟会員社など、さまざまな立場から業界への提言が飛び交った。

がんの早期発見に貢献する先進画像医療システム

 会の冒頭で、独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター長 森山紀之氏が基調講演を行った。同氏は講演全般を通じて、がん診断という観点から画像医療システムがどのように貢献しているか、実際の画像や症例を示しながら説明した。

 画像医療システムを利用するメリットは、何よりがんを早期発見できることにあるという。「従来、画像診断といえば胸部X線写真くらいしか方法がなかった。臓器の重なりなどもあってがんが進行した状態ではないと判別しにくく、そもそも撮影も読影も難しかった」と森山氏は説明する。

 しかし、内視鏡やCT、MRIなどのシステムを利用すると、初期の小さながんでも比較的容易に発見できる。「早く見つけられるということは、患者の命が助かるというだけでなく、治療における患者の体への負担が少ない上に、治療費も少なくて済むということ」と森山氏は語る。実際、同氏の調査によると、胸部X線写真とヘリカルCTでは、発見できるがんのステージに大きな差があるという。

 それはがんの生存率解析でも、明確に分かるという。ヘリカルCT導入前の5年生存率は49%だったが、ヘリカルCT導入後は84%に向上している。また、治療費という点でも大きな違いがある。例えば大腸がんの場合、全大腸内視鏡検査と生検で発見されたがんであればポリープ除去ですむため、治療費の総額は6万8000円程度で済む。しかし、進行がんで発見された場合は、手術費、抗がん剤治療などで約1100万円にはねあがってしまうという。

コンピュータを使った自動診断も実用段階に

 森山氏が画像医療システムの新しい潮流の1つとして期待しているテクノロジーに、トモシンセシスがある。これは、Tomography(断層)とSynthesis(合成、統一)の2つの語を合わせて作られた造語で、多方向から撮影したデータを元に画像を再構成するX線撮影技術。重なりのない断層画像が得られ、放射線量もCTの10分の1という低被曝な方法である。森山氏は、乳がん検診や整形外科領域でいずれ主流となるシステムと見ており、国内メーカーに対して、この分野への積極的な取り組みを勧めた。
 
 このトモシンセシスだけでなく、先進の画像医療システムの利用によって、“苦しい、痛い思いをしなくてすむ”“造影剤を使うことでのリスクを減らせる”など、患者が診断時に受ける負担も少なくなっている。また、CAD(コンピュータ支援診断)による自動診断という形で、診断の支援も得られる。「この分野では、ハードウエアメーカーと形状認識技術などに強みを持つソフトウエアメーカーがコラボレーションするケースも増えており、画像医療業界が進んでいる方向の一つと受け止めている。医師といっても万能ではなく、分からないことは分からない。そこを、このようなCADのようなテクノロジーが埋めてくれる、と期待している」(森山氏)

 最後に森山氏は、医師は常に夢のあるシステムを望むものとして、「1番をめざす新しい診断技術へ挑戦して欲しい。時代の流れやユーザー側の業務実態を理解した、操作性の高いシステムの開発をお願いしたい」と画像医療システム業界へ要望を掲げて降壇した。

画像医療システム業界の向かうべき方向性は?

 この研究会では、JIRA理事である和迩秀信氏を座長に、JIRAメンバーのパネリストによるグループ討議も開催された。登壇したのは、JIRA 産業戦略室 岩永明男氏、東芝メディカルシステムズ 小松研一氏、富士フイルム 田中弘氏、エレクタ 芦野靖夫氏である。

 日本の医療機器業界は、輸入超過の傾向がある。しかし、画像医療システムに関しては輸入量より輸出量が多く、医療機器業界の中では国際競争力がある。ただし、10年前と比較すると、陰りが生じ始めているのが現状だという。

 こうした中、さらなる産業振興を図るために、東アジア、東南アジアをはじめとする海外市場への進出、診療報酬制度に依存しすぎない製品開発、新たな医療IT分野、診断領域から治療領域への進出などの視点が欠かせない。さらに海外市場への進出という点では、日本の医工系大学留学生へのアプローチなども考えるべきで、ベンチャー立ち上げ支援も含め、人にフォーカスした戦略も重要だという意見が提出された。一方、行政への要望として、「“日本品質なら安心・安全”という信頼を確立するための厳格な審査基準と迅速な審査プロセス」を求める声も上がった。

 ただ、JIRAの大多数を占める中小企業の立場からすると、これらはかなりハードルの高い目標だ。中小企業には特定の技術に専門化した部材提供企業もあり、単独ではなかなか動きにいのに加えて、技術潮流の急激な変化へのキャッチアップへも難しい。また、完成品の領域においても、原材料費、人件費の高止まりなどにより海外市場で価格競争力を持てない、価格は高くても高品質という価値が認められないと受け入れられない、という悩みを持っている。

 ディスカッションの中では、「日本は情報戦に弱い。留学生へのアプローチが重要といいながら、彼らの追跡調査をまったくしていない。ぜひデータベース作りを」「やみくもに市場調査に歩き回るだけでなく、その国のキーパーソンを押さえてくるような努力が必要」 「産業界の人は、びっくりするほど薬事法を知らない。ルールから外れているのに、『機械の品質が高いから早く承認を』といっても通らない。もっと薬事法の勉強を」といった厳しい意見も聞かれた。

 討議の最後にJIRA会長 加藤久豊氏が、「現在は多くの分野で、品質がいいから値段は高くて当たり前、というのは通用しなくなっている。その点、画像医療システムは、一番リスクの少ない部類の医療機器だ。安全を確保しながらも、効率のいい製品を市場に出していこうとする姿勢が必要なのではないか」と提言して会を締めくくった。