医療や健康サービスの質を向上させるためにテクノロジーを活用する――。これがデジタルヘルスの根幹となる概念だ。言い換えると、先進的なIT技術を単に医療へ持ち込むのではなく、それぞれの医療現場のニーズに合わせたIT化が重要ということだ。
導入先の要望に合わせたシステム開発は当たり前のように思えるが、医療にテクノロジーを取り入れるとなると、実際にはいくつものハードルが横たわっている。医師と技術者の意思疎通が困難、患者の負担を減らす目的で導入した新サービスが実際には患者の負担になっている、などだ。
長崎県五島市にある「長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 離島・へき地医療学講座 離島医療研究所」(前田隆浩教授・所長)は、市内にある病院や診療所、訪問看護サービス事業者などと協力し、医療現場のニーズに合わせた情報共有化システムを開発。無線技術を使った血圧や血糖値、血中酸素濃度の計測に加えて、訪問看護時の計測結果を医師と円滑に共有するシステム構築も進めている。
五島市は、11の有人島と52の無人島からなる自治体で人口は約4万2000人。最大の島である福江島は、長崎市から飛行機で約30分、高速フェリーで約1時間半のところにある。五島市とその周辺にある島を含む「五島地域保健医療圏」では、65歳以上の人口が全体の32.6%(2008年、長崎県全体では25.3%)に達する。一方、人口10万人に対する医師数は長崎市が404.0人なのに対し、五島市は178.3人(長崎県医療統計、2006年)。高齢者が多く、医師も不足しているという、日本がこれから対処しなければならない課題に既に直面している地域なのだ。
2004年に長崎県と五島市は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科に寄附講座「離島・へき地医療学講座」を開設。五島市を中心とした離島・へき地で効果的な地域医療情報システムや医学教育システムの研究開発を進めている。長崎大学離島医療研究所の所長も務める同講座の前田隆浩教授は「離島やへき地で医療の質を向上させるには、少ない医師や看護師が、効率よく迅速・正確に患者に対応できる仕組みが必要です」と語る。