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現場の負担を減らせば医療サービスは向上する

 離島医療研究所は、文部科学省の「都市エリア産学官連携促進事業(平成20年度開始)・発展型」のひとつである「予防・在宅医療システムの開発と検証」に取り組んでいる。テーマは、生体情報センサーを既存のネットワークシステムにつないで情報の共有化と離島・へき地予防在宅医療システムの有効性実証試験を実施し、事業化と製品化を目指す。医療分野は長崎大学が、導入する技術開発は長崎総合科学大学が中心となって、医療機器メーカーや医療情報サービスベンダーと共同でシステムを開発している。

 導入機器やシステム開発を担当する、長崎総合科学大学の田中義人教授は、五島市での医療情報共有化システムを開発するに当たり、5つの課題を設定した。

【開発の課題】
・現場業務の省力化
・前線で働く医療関係者間のコミュニケーション強化
・在宅医療現場での迅速な対応
・記載や伝達のミス防止
・医療や福祉資源の乏しい地域への適応
長崎総合科学大学の田中義人教授は「医工連携には、医療現場のニーズを最重視することが大切」と話す

 「医療に情報共有化システムを生かすには、まず医療現場のニーズを把握するのが重要です。技術先行で製品を作り、それを医療現場に当てはめるという発想は、必ず現場に無理が生じます」(田中教授)。いきなり技術を医療現場に生かそうとするのではなく、まず最前線の医療現場を見て、そこに必要なサービスは何かを探る。現場で把握した課題の解決策として、結果的に情報共有化や最新技術を使った医療機器やサービスを利用する、というわけだ。

 2008年10月に、計測結果を有線と無線で端末に転送する医療機器を使った実証実験を開始した。血圧計や血中酸素濃度計、心電計や体温計と、それらの計測データを入力する携帯型の情報端末でシステムを構成。病院だけでなく、訪問看護師や特別老人介護施設でも実際に利用して、問題点や要望を探った。

 そこで明らかになったのは、どれほど効率を上げるはずの仕組みであっても、「従来の業務の延長線上にある」ことが必要で、これがないとかえって効率が悪化するということ。仕組みとしては効率が上がるはずでも、その仕組みが従来の業務と同じ役割を担っていない限り、看護師にとって新しい作業が増えるだけだからだ。そのほか、データを共有する仕組みがあっても医師と看護師のコミュニケーションがうまく取れていない、導入費用を負担する病院にとって患者の看護費用が削減できたり、医師や看護師の負荷を軽減できるといったメリットが必要だ、ということも課題となった。

【実証実験で分かった課題】
○これまでの仕事の延長線上にあり、現場の仕事を減らすシステム開発
 ・現在と同じ入力フォーム
 ・USB機器を利用しない
 ・省力化できる入力方法
○医師と看護師のコミュニケーション円滑化・連絡方法(PCメール、携帯メール、ナースステーションからの連絡)
 ・画像、心電、肺音など言葉にできない情報の取り扱い
 ・電子カルテとの連携
○病院のメリット
 ・ドキュメント整理の省力化
 ・報告、連絡業務の省力化
 ・安価なシステムの開発

 この課題をもとに、使用機器の無線化と、データを入力、医師がそのまま閲覧できる統合ソフトの開発を進めた。計測機器は長崎総合科学大学の田中教授が選定し、それらに合わせた看護端末のデータ入力・閲覧のシステムの開発は、SFKメディカル(長崎市)が担当した。

 機器選定に当たり、無線方式を当初は短距離無線の国際規格であるZigBee(ジグビー)を検討した。しかし、「海外の計測機器も使うことを考えると、国際的に採用例が増えている規格の方がいいと考えました」(田中教授)と判断し、コンティニュア・ヘルス・アライアンス(Continua Health Alliance)が推進するBluetoothを使った無線接続方式を採用する製品を中心に検討することにした。

 ただ、実際に使う現場から見れば、無線通信方式の違いは作業に特に影響がない。USBのようにケーブルで接続するのではなく、ケーブルでつなげる必要がない計測方式であればよい。田中教授もこの点は認識しており、無線化のフィールド検証ではBluetoothだけでなく、おサイフケータイなどで知られる非接触ICカード技術FeliCaを利用した体温計や血糖値計も実験した。

実証実験に使った計測機器の構成図(田中教授のプレゼンテーション資料より)。データ転送方法を統一することよりも、現段階で実際に利用できる計測機器選びを優先した。
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 看護端末のソフトウエアは、「簡単な操作で必要な事項が入力でき、なおかつ医師が状況を一覧できるインターフェースにしました」と、SFKメディカルの佐藤康彦会長は言う。開発時に工夫した主な点は以下の通りだ。

【開発時の工夫】
・看護の現場で、キーボード入力や手書き入力はできない。必要な項目をプルダウンメニューから選べるようにする
・入力内容を音声ガイダンスで確認し、正確な計測を実現
・現場で撮影した画像データを取り込み、電子カルテ用シェーマ画像と連動させる
・コメントを音声で入力できるようにする
・トップ画面を表示すると、医師が確認したい内容が一覧可能
・パスワード認証やデータ暗号化による情報管理
・日医標準レセプト、訪問看護専用請求支援ソフト「訪看鳥」、給付管理/介護報酬請求支援ソフト「給管鳥」との連携を可能にして、診療報酬請求業務を軽減

 実際に運用してみると、入力時・閲覧時の両方で画面表示が小さいことが分かった。「電子化していないカルテを使っている病院がプリントアウトして管理しやすいようにするため」(佐藤会長)、画面はカルテと同じA4版で設計しているからだ。表示方法や画面デザインの改訂は、今後の大きな課題となっている。

計測結果を入力する画面。「その日の計測結果だけでなく、記録の変化が見られるようにした」(佐藤会長)。
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