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 自治体が旗振り役となり、地域の医療連携を大学、企業と共に進める好例がある。韓国テグ市が2010年4月から3年計画で、約152億ウオン(約10.7億円)を投入して進めている「スマートケア実証実験」だ。

 地域の中核病院が中心となって地域医療連携を進めたり、遠隔医療や健康サービスを実証実験する例はあるが、全体の取りまとめを自治体の専門部署が担当し、その計画に大手メーカーや大学病院が加わるというケースは少ない。

LGエレクトロニクスが基本システムを開発、大学病院が実験に参加

 韓国の5大都市の1つであるテグ市は、ソウルからKTX(高速鉄道)で1時間40分ほど、釜山からは1時間ほどの距離にある。人口は約253万人、約93万5000世帯が住んでいる。2011年世界陸上大会の開催地としても知られる。

 テグ市は1970年代まで繊維産業で栄えた都市で、製造工場が多かった。最近は製造工場団地を科学技術研究団地に変え、ITベンチャーインキュベーション、ITと医療の融合技術開発、繊維開発に力を入れている。

 2010年4月から3年計画で実施している実証実験は、韓国の国策事業の1つである「スマートケア実証実験」。テグ市とLGエレクトロニクスや地元の医療機器会社が参加するLGコンソーシアム、テグ市内の慶北大学病院、嶺南大学病院、啓明大学病院とソウルにあるソウル大学病院、延世大学江南セブランス病院、延世大学新村セブランス病院、テグ市内の38診療所が協力して、テグ市に住む慢性疾患患者を対象にした遠隔医療サービスと、健康を維持し慢性疾患にならないための遠隔健康管理サービスを提供。その効果を計測し、課題を探っている。

テグ市・現新技術産業局医療産業チーム長のホン・ソクジュン氏。ソウル大学大学院(行政学修士)卒業。テグ市庁文化体育局ワールドカップ支援班、経済自由区域開発計画チーム長、メカトロニクスチーム長などを歴任。

 テグ市でスマートケア実証実験の指揮を取る新技術産業局医療産業チーム、ホン・ソクジュンチーム長は、スマートケアの取り組みや地域連携医療の在り方、自治体の役割について、こう語る。「高齢化が進む中、地域医療の強化や遠隔地の診療・指導方法の開発は必須。ただ、これらの医療・健康サービスが必ずしもビジネスになるとは限らない。一般企業がここに投資するには、リスクが高い。そこで、行政が資金や運営面で積極的に関わることにした。今回の実証実験は、医療的な効果を測ることはもちろん、効果があった場合のビジネス展開も含めて検証している。行政が中心になることで、競合関係にある企業も一緒に開発、検証しやすい環境を作ることもできている」。

高齢化対策と地域経済活性化を狙う

 テグ市が地域連携医療、遠隔診療などのヘルスケアに関して問題意識を持つようになったのは、「市民の高齢化対策と地域経済活性化という2つの大きな課題を解決するため」(ホン氏)。

 韓国では、市民の所得水準が高くなる一方で、高齢化も急速に進んでいる。高齢化が進めば、国の保健医療費負担も増加する。これを解決するために、「ユビキタスヘルスケアといった先端医療産業を育成し、医療産業の効率化と医療費用の節減を目指した」(同)と言うわけだ。医療サービスのトレンドは治療よりも疾病の予防と早期診断、健康の維持や増進のため、個人一人ひとりに合わせた健康管理サービスに向かっている。

 住民のための医療品質向上に加えて、医療を産業として発展させ、「ゆくゆくはテグ市の技術、ノウハウを海外に販売できるレベルにしたい」(同)という狙いもある。

 ユビキタスヘルスケアの実証実験を開始したのは2006年。ヘルスケアは韓国中央省庁の知識経済部(日本の経済産業省に相当)、保健福祉部(同、厚生労働省)が進めている国策事業でもある。知識経済部は未来成長動力として医療機器産業を指定している。

 テグ市と市内の区役所、病院が一緒になって2006年にはウェアラブル医療機器を利用した遠隔健康管理実証実験を、2007年からは心脳血管疾患患者を対象にした遠隔医療実証実験を実施。2008年にはユビキタスヘルスケア融合ネットワーク研究センターを設立し、ユビキタスヘルスケア製品とサービスモデルを事業化するための支援も開始した。

 2009年4月には「MEDICITY DAEGU」というキャッチフレーズを制定。テグ市の医療産業チームは先端医療機器開発と医療サービス、そして医療観光の産業化に乗り出した。そして2010年4月から、「スマートケア実証実験」を3年計画で開始した。