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第40回日本医療福祉設備学会のシンポジウム、「チーム医療を推進する職種間情報連携のあり方」の光景
第40回日本医療福祉設備学会のシンポジウム、「チーム医療を推進する職種間情報連携のあり方」の光景
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 11月9、10日に開催された第40回日本医療福祉設備学会では、スマートフォンの医療・介護現場での活用事例に関する報告が目立った。中でも、シンポジウム「チーム医療を推進する職種間情報連携のあり方」では、訪問看護や在宅医療、そして病院のスタッフ教育でのスマートフォン活用の実際が、3人のシンポジストによって紹介された。

患者のサマリーを基に紹介状を作成

 まず、桜新町アーバンクリニック(東京都世田谷区)院長の遠矢純一郎氏は、「スマートフォンの導入によって事務作業時間が減り、訪問先での滞在時間が約50%増えた。在宅医療の現場で使えるなと実感した」と指摘した。同クリニックのグループは、約2000人の在宅患者を抱え、複数の医師が24時間365日体制で、患者宅からの呼び出しに対応する体制を取っている。

 電子カルテは3G回線経由でiPhoneにより閲覧可能なのだが、日々の診療録は緊急時に提供する情報としては不向きなため、個々の患者ごとのサマリーを作成してクラウド上のオンラインストレージに置き、iPhoneでいつでも閲覧可能にしている。緊急時にはこれを基に、患者を紹介する病院に送る診療情報提供書が、iPhoneだけで作成可能だ。しかも、電子データをファクスに出力するサービスを利用することで、iPhone から直接ファクス送信できる。

 保険証や処方せんといった紙情報も撮影してメールに添付して送信すれば、薬局などにファクスで届けられる。患者アドレスや往診スケジュールも大手検索会社などのクラウドサービスを利用することで、一人ひとりが自分のiPhone に入力する必要はなく、自動的に最新情報に更新される。これらの効果で、在宅医療そのものに使える時間が大幅に増えたというわけだ。

持ち運ぶカバンが一つだけに

 一方、聖隷訪問看護ステーション千本(静岡県沼津市)所長の櫻井悦子氏は、休日や夜間も含めた24時間体制が欠かせぬ訪問看護にスマートフォンを導入したことで、「患者宅を訪問する際の荷物が大幅に減らせた上、夜中に訪問先の近くで地図とにらめっこする必要もなくなった」と話した。

 同ステーションの利用者は約200人で月の訪問件数は1100回、夜間・休日の緊急訪問も月に20回程度ある。その際、看護師は自宅から車で患者宅に向かうのだが、その際の荷物が多く重労働だという。

 必要な医療器具や物品は車に置いておけばいいが、利用者のプロフィールやこれまでの経過、主治医の連絡先、ケアマネジャーの名前などの情報は、個人情報保護の観点から車内に置いてはおけない。そこで大きなかばんに入れて、肌身離さず持ち歩いていた。

 だが、利用者らの同意を得て必要な情報を登録、2人の緊急当番とステーションの責任者がiPhoneを持つようにしたところ、今まで二つ持っていたカバンを一つに減らすことができたという。櫻井氏は、「使い始めてまだ数カ月だが、かなり仕事が楽になった。今は、まだ私たちと在宅担当医との間の情報共有にしか使っていないが、いずれは多職種間の情報共有ツールになればいい」と意欲を見せる。

教育コンテンツの評判は上々

 さらに、北九州市小倉北区にある医療法人真鶴会小倉第一病院のMIT(医療情報技術)部長の隈本寿一氏は、iPhoneやiPadを活用したスタッフ教育の取り組みと効果について報告した。同病院は、忙しい職員を1カ所に集めて教育するのは難しいとの考えから、好きな場所、好きな時間に学習できるよう、2004年にe‐Learningをスタートさせた。

 2009年には新入職員全員にiPod touchを渡して、スマートフォンやスマートパッドなどによるモバイル・ラーニングに着手した。例えば看護師向けでは、感染対策といった技術面や接遇改善などの教育が、iPhone4を使って受けられるようにした。薬の作用や効果の検索など15種類のアプリを使用し、座学で実施した講義内容も36項目録音して学べるようになっている。

 隈本氏は、「新入職員を対象にしたアンケートでは、ほぼ全員が『iPod touch のコンテンツは役に立っている』と答えた」と語り、利用者の評判は上々だとしている。今年5月からは端末をiPad2に変更し、今後もモバイルによる教育に力を入れていく方針だ。