「有望な技術シーズが、革新的な医療機器の実現に結び付かない」「日本発の技術シーズにもかかわらず、海外における臨床試験が先行し、国内での実用化が大きく遅れてしまう」─―。国内での医療機器開発をめぐっては、これら「デバイスラグ」とも称される問題点が指摘されて久しい。患者が日本発の技術革新の恩恵を真っ先に得られていないのが現状である。
こうした状況の解決に向けた国の取り組みが、いよいよ始動した。「薬事戦略相談」と呼ぶ事業である。政府が2010年に打ち出した「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」に関する施策の一環として、厚生労働省とPMDA(医薬品医療機器総合機構)が手掛ける。PMDAが2011年8月と9月にそれぞれ大阪と東京で開催した薬事戦略相談事業の説明会には多くの聴講者が詰め掛け、関心の高さをうかがわせた。
薬事戦略相談の主な対象となるのは、医療機器などに向けた技術シーズを見付けたばかりの大学や研究機関、ベンチャー企業など。PMDAが、実用化に向けて必要な試験や治験の計画策定などに関する指導や助言を行う。例えば、ベンチャー企業などがプロトタイプを試作したという開発の早期段階で、「こうした試験をしたらどうか」というフィードバックを受け、結果として早期の承認・実用化につながることを狙っている。「事前面談」は手数料が不要で、幅広い案件を受け付ける。事前面談で一定の要件を満たすものについては、手数料が必要となる「対面助言」に移行するという流れだ。
リスクの予測・評価に向けた議論も
デバイスラグの解消に向けては、もう一つ重要な側面がある。新たな技術を活用した先端医療機器に対するリスクの予測や評価に関して一定の判断基準を設ける必要があることだ。判断基準がなければ、先端医療機器を開発する側も審査する側も何を目標に進めれば良いのかが曖昧になり、結果として開発・審査の遅れにつながってしまう。
2011年9月2~3日に開催された「第1回 レギュラトリーサイエンス学会 学術大会」は、リスクの予測・評価のための判断基準を新たな学問体系として確立させようとする動きの一つである。今後、デバイスラグの解消に向けて有益な議論になる可能性がありそうだ。