NTTデータグループは28日、「NTTDATA Innovation Conference 2011」を開催。同社保険・医療ビジネス事業本部戦略企画室室長 富田茂氏が「国民の医療を支えるヘルスケアITの可能性」と題したセッションで、ヘルスケアITの現状を述べるとともに、同分野における同社の取り組みを紹介した。
まず、富田氏は急速に進む少子高齢化社会とそれに伴う医療費の国民負担率の増大、疾病構造の変化など医療を取り巻く環境の変化を示すとともに、日本のヘルスケアITの現状を述べた。その中で医療分野のIT化の一例として、レセプトオンライン請求の普及状況と電子カルテシステムの導入状況について触れた。レセプトオンライン請求は医科(病院)で97.4%、調剤薬局では99.9%まで浸透し、ここ5年間で国の施策に基づいて医療費請求にかかわる効率化が進展してきたこと。その反面、電子カルテは400床以上の病院で半数近くが導入済みであるものの、全体では12.5%に留まっており、国の計画通りに進んでいないことを指摘した。
また、ヘルスケアIT戦略を進める上での課題として、医師法や医療法などの要件を考慮した環境整備が必要であること、医療機関同士の情報交換のための標準化の課題やセキュリティ、事業継続性などの課題について述べた。特に標準化における課題について富田氏は、「院内の情報システム間の標準化はかなりレベルで完了しているが、医療機関や地域間での情報連携のための標準化は遅れている。HL7やIHEなど標準化推進組織で作業が進められているが、組織間での連携がまだ不十分。医療ITにかかわる多くのベンダーが標準フォーマットを理解しておらず、その対応がなかなか進まない」と指摘した。
さらに事業継続性における課題では、事業の持続性が求められる医療機関にとってITに対する投資の継続性を確保できるよう、ITを適正に評価される仕組みが必要だと強調。「医療機関のITそのものを適正評価しないとIT化は進展しない。IT投資の継続性を確保できるように、診療報酬制度で電子化加算を設けるなどの方法によって、インセンティブを付与していく施策が望まれる」と指摘した。
こうした課題が解決されることによって富田氏は、施設内での診療情報の電子的管理・利用(EMR)から、地域の医療機関どうしでの診療情報の共有・利活用であるEHR、個人が自ら健康情報を管理するPHRという、現在政府や医療界が進めるヘルスケアITの発展形態が実現できるとした。
このEHR分野でNTTデータグループが取り組んできた実例として、富田氏は地域医療における疾病管理とジェネリック医薬品の利用促進のソリューションを紹介した。前者は千葉県立東金病院と共同開発した慢性疾病管理プログラムで、患者の病状を検査値の変化によって常に監視し、対象となる患者を早期の治療へ誘導することにより適切な時期に適切な治療を行うことで重症化の予防と良好な治療効果を実現しているという。この慢性疾病管理プログラムでは、地域全体のハイリスク患者を重症度のレベルに応じて階層化・一覧表示してハイリスク患者をピックアップする機能と、バリアンスを自動的に検知するアラーム・ガイドラインパス機能によって、かかりつけの診療所と地域中核病院の循環型医療連携を実現していく。
ジェネリック医薬品の利用促進ソリューションは、医療保険者が持つ被保険者のレセプトデータを分析し、ジェネリック医薬品処方による薬剤費の個人負担削減額を知らせる『ジェネリック医薬品促進通知書』を出力して被保険者個人に情報提供するサービスである。
最後に富田氏は、今後医療界でも注目される分野として、地域医療連携プラットフォームのクラウド化を指摘した。「昨年から民間のデータセンターで医療データを管理・運用できるようになり、ヘルスケア分野でもクラウド化が進展していくと考えられる。クラウド化されたプラットフォーム上で医療や介護、健康管理などさまざまなアプリケーションサービスが提供できる環境が、今後構築されていくだろう。ただ、(一般のクラウドサービスと異なり)医療の各種ガイドラインに沿った、安全で高度な仕様を有するクラウドプラットフォームを構築する必要がある」と強調した。