インターシステムズジャパンが共催したランチョンセミナーでは、熊本大学医学部附属病院の医療情報経営企画部部長 宇宿功市郎氏が、2010年9月に本稼動した新病院情報システムについて、主として臨床データを教育・研究に活用する視点で紹介した。
基盤・業務系システムと情報系システムは車の両輪
熊本大学病院は、電子カルテを含めた病院情報システムを刷新し、2010年9月から本格運用を開始した。この新病院情報システムの特長の1つは、病院運営を支援する基盤・業務系システムの診療情報を、教育・研究支援に活用するための仕組みを組み込んだことだ。
「大学病院には、医療者となるべき後輩を育てるという責務もある。教育研修のための情報を収集し、その情報を教材として活用することが非常に重要。従来の大学病院の医療情報システムには、教育・研究のために診療情報を活用できるような仕組みはなかった。オーダリングや電子カルテ、医事会計、各種部門システムなど病院運営を支援する基盤・業務系の仕組みと、その業務システムとリンクして臨床データを教育・研究に活用するための情報システムが、大学病院の中では車の両輪として動かなければならない」と、宇宿氏は新病院情報システム開発の背景を述べた。
宇宿氏は「従来の病院情報システムは、特に時間軸の情報一覧性が貧弱で、過去の症例を調べる検索機能が不十分。教育研修支援や研究支援の機能はほとんどなかった」と説明。熊本大学病院の新病院情報システムでは、“診療に役立ち、医療従事者の利便性が高く、EBM、医療安全にも対応するシステム”を目指したという。
具体的には、情報を統合するためのミドルウエアを使い、オーダリングや各部門システムなどの基盤・業務系システムから情報を吸い上げ、検索機能に優れた統合データベースに一元的に蓄積。それを、各部署の必要に応じた形式で参照できる仕組みを構築した。そのミドルウエアとして、サービス開発・データおよびプロセス統合・編成、および管理を包括的に行う統合ソフトウエア「InterSystems Ensemble」とオブジェクトデータベース「InterSystems Caché」を採用した。
統合機能、検索機能に優れたミドルウエアを導入
Ensembleは、約270のアダプタを持ち、SQL、HL7、TCP/IP、SOAPなどパッケージアプリケーションやデータベース、標準規格との間で接続とデータ交換ができる。オーダリングシステムや各部門システム、地域連携システムなどのデータを取り込んで、Cachéに統合化して検索機能によって各部署に必要な情報をWebブラウザで提供する。情報検索画面では、患者基本情報、診療内容、病名、処方薬剤、検体検査などさまざまな条件を組み合わせて検索できる。「過去の症例、薬剤投与状況、検査結果から、同様の症例患者への治療計画に利用できる環境が整った」という。
一方、教育・研究でのデータ活用では、データアクセスの権限設定により、利用許可や抽出データの匿名化が可能で、個人情報を伏せた症例データ活用ができるようになった。宇宿氏は、「これまでも病院のデータウエアハウスは広く活用されてきているが、臨床や教育研修、研究支援用に特化したシステムは少なかった。今回のシステムを、新たな診断治療方法の開発につなげていきたい。まだ稼動したばかりで課題もあるが、そのスタートに立つことができた」と締めくくった。