医療法人の損益計算書や貸借対照表が閲覧可能になってから5年が経過した。都道府県の窓口には、既に4年分の決算書が蓄積されている。公認会計士が監査した決算書はごく一部のため、経営数字をうのみにはできないが、各年度の決算書を読み比べれば経営の実態が見えてくる。
東京都庁第1本庁舎23階の福祉保健局医療政策部医療法人係。ここのロッカーに、都内にある医療法人の2008年度以降の決算書が収められている。整理番号を調べ、住所や氏名、医療法人名などを記入した用紙を係員に提出すれば、誰でも医療法人の決算書を閲覧できる。
コピーはできないが、事業収益や経常利益といった経営数字をメモすることは差し支えない。2007年度の決算書類が閲覧したければ、係員に頼んで保管場所から持ってきてもらえばいい。
五つの書類が開示対象
2006年の医療法改正で、医療法人の決算に関する5種類の書類が開示されることになった。事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監事監査報告書──の五つだ。各医療法人は、2007年4月1日以降に始まる事業年度から、毎年これらの書類を都道府県や地方厚生局に提出している(図1)。

書式については、厚生労働省医政局指導課の通知で、ひな型が定められている。
貸借対照表と損益計算書は、病院や介護老人保健施設を経営しているか、診療所のみかなどで、違った書式となっている。損益計算書を例に取ると、診療所のみを経営している医療法人の場合は、事業を本来業務と附帯業務に分けて収益、費用、利益を表示し、さらに事業利益、事業外収益・費用、経常利益、特別利益・損失、当期純利益などを示す簡便なものとなっている。
これに対し病院や老健施設を経営している場合は、事業費用を事業費と本部費とに分ける、事業外費用の内訳として支払利息を表示する、など詳細な経営成績の開示が求められている。
なお、ひな型のうち不要な勘定科目を削除したり、別の勘定科目を立てることも認められている。今回の取材で閲覧した決算書の中には、貸借対照表に「電話加入権」や「工具器具備品」といった、厚労省のひな型にはない勘定科目を立てている例も散見された。
大半は公認会計士の監査なし
医療法人の決算書類は、病院や老健施設を経営している場合でも、上場企業が公表する貸借対照表や損益計算書ほど詳しくはない。その上、社会医療法人債を発行している場合などを除き、公認会計士による監査は義務づけられていない。
もちろん、損益計算書や貸借対照表が、損益や財産の状況を「正しく示している」と監事が認める旨の監査報告書は添付されている。監事は、会計帳簿などの調査を行った上で、これらを監査することになっているが、会計の知識や実務に通じた監事でなければ、法令上問題のある経理処理があっても、なかなか見抜けないだろう。
そもそも、信用調査マンやコンサルタントの間では、「中小企業の決算書はあてにならない」という見方が一般的だ。公認会計士の監査を経ていない大半の医療法人の決算書についても、同様の見方をする専門家は少なくない。
特に、経営状態が芳しくない医療法人の場合、金融機関に業績を良く見せるため、適正とはいえない経理処理を行っている可能性はより高いと考えるべきだろう。倒産後に粉飾決算が明るみに出るケースは、上場企業であっても時折見られる。