農地転用などの許可のワンストップ化

――発電事業者にとって、手続き上、どんな利点があるのか。

農林水産省 食料産業局 再生可能エネルギーグループの信夫隆生グループ長
(撮影:清水 盟貴)

信夫 土地などの利用に関連する許可や届け出の手続きを、市町村段階でワンストップで行うことができたり、複数の地権者がいる場合の所有権や賃借権などの移転・設定の手続を市町村が代行して一括して処理できる仕組みを用意した。

 基本計画に基づいて、発電設備を導入しようとする発電事業者は、基本計画を作成した市町村に「設備整備計画」の認定を申請する。「設備整備計画」は、基本計画に則したものとし、発電設備の内容や、農林漁業の健全な発展に資する取り組みを具体的に定めてもらう必要がある。

 市町村は、申請された設備整備計画が基本計画に即して妥当なものがどうか判断し、適合している場合には認定する。認定の効果は二つある。

 一つは、本来、設備整備を行おうとする事業者が、国や都道府県に申請しなければならない土地利用などに関する許可や届け出を、市町村に対して行うことができることである。市町村が、本来の許可権者である大臣や知事から「同意」を取り付けて、その上で認定することで、許可があったものと「みなす」仕組みである。これが「ワンストップ化」と呼ばれる措置である。

 この法律では、農地法、森林法、漁港漁場整備法など合計7つの法律の13の許可、または届け出の手続きを「ワンストップ化」の対象としている。

 もう一つは、「所有権移転等促進事業」と呼ばれるものである。複数の地権者と発電設備の整備を行おうとする事業者との間の権利移転・設定を、市町村の「所有権移転等促進計画」の作成・公告により一括して処理する仕組みである。

 例えば、発電設備を導入しようとする土地に、複数の地権者がいる場合、発電事業者は、地権者と個別に契約を結ばなければならず、従来はこの手間が大きかった。

 これに対して、今回の制度では、対象となる土地の地権者全員の同意が得られた時に、所有権移転促進計画として、地権者の氏名、土地の地番、賃借権を設定する場合には賃借料をすべての地権者名とともに示し、発電事業者名も含めて公告する。この公告の時点で、土地に関する権利が移転される。一本一本の契約によらず、市町村が作る計画を公告すれば、権利移転が済むという仕組みである。

 この仕組みを使うには、条件がある。再生可能エネルギーによる発電に使う土地の権利関係を整理すると同時に、農林地の権利関係を整理することである。

 農地整備が進んでいない農地の中には、権利が輻輳しているために、農業にもうまく利用できていない土地がある。こうした農林地を効率的に利用できるようにし、農業と再生可能エネルギーが隣り合う形で共存できるよう、一つの地域でうまく土地利用の調整ができることを目指した。

――市町村が、一人一人の地権者と権利を調整するのか。

信夫 その場合も、協議会の活用が重要になる。市町村が個別に調整に当たる場合もあるが、協議会の場で、公正に権利関係や賃借料について検討し、権利移転の合意を取り付けていくことが多くなるだろう。

 今回、市町村が中心になる制度とした理由は、土地の利用状況は、市町村が把握しているからである。協議会において、発電事業者が発電設備を導入したい荒廃農地を提案すれば、市町村はその土地の農業上の再生利用が「可能」なのか、あるいは「困難」なのか、また、発電設備を整備する区域に設定できるのか、できないのか、すぐにわかる。

 例えば、発電事業者の希望する農地が転用できない場合、再生可能エネルギーの導入に熱心な市町村ならば、その計画に適し、かつ、農地転用が可能で地域の営農にも影響がない別の土地の活用を提案するだろう。電力会社の変電所に近いのか、系統連系コストはどの程度かといった点もその場で検討できるはずである。