「理学・物理学と工学・産業を結ぶ学会」として、80年以上の歴史がある応用物理学会。半導体や超伝導、有機エレクトロニクス、パワー半導体など、産業界に欠かせない技術の研究開発の最前線が、応用物理学会に集まる。数多くの技術が、応用物理学会から産業界に羽ばたいていった。2014年のノーベル物理学賞を受賞した赤崎勇氏(名城大学)、天野浩氏(名古屋大学)、中村修二氏(米University of California Santa Barbara校)も、応用物理学会で青色LEDの研究開発状況を報告していた。
本コラムでは、応用物理学会が発行する機関誌『応用物理』に掲載されたコンテンツの中から、日経テクノロジーオンラインの読者の皆さんにぜひ知っていただきたい技術の記事を抜粋して紹介する(『応用物理』の最新号へのリンク、最新号の概要へのリンク(PDF))。さらに抜粋記事に加え、応用物理学会の関連分野で今後注目度が高まるテーマについてのオリジナル記事も紹介していく。

応用物理学会から
目次
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断線部分を自己修復する金属配線と伸縮デバイスへの応用
応用物理「自己修復型金属配線と伸縮デバイス応用」
近年、伸縮可能な電子デバイスの研究が盛んに行われており、重要な要素の1つとして高伸縮性と高導電性を有する電気配線が求められている。これまでの研究は材料や形状を工夫するアプローチが多いが、我々は導電性のよい金属の電気配線を用いてそこに自己修復という機能を付与するというアプローチで研究を行っている。
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「スケーリングIGBT×IoT、AI」が拓くニューパラダイム
応用物理「スケーリングIGBTが拓くパワーエレクトロニクスの新しいパラダイム」
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のスケーリング則は、デバイス性能の向上に加えて、ゲートドライブ電圧の低減により集積回路と一体化することを可能とする。我々は量産性に優れたシリコンテクノロジーと独自のスケーリングIGBT の概念をベースに、IoT(Internet of Things)や人…
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放射光科学発展のカギ、高精度X線ミラーの開発
応用物理「放射光科学のための高精度X線ミラーの開発」
放射光X線を利用した分析法は科学技術の発展に不可欠な役割を果たしており、その高度化には光源とその特性を引き出す光学素子の高性能化が大きく貢献している。ここでは、X線のナノ集光やナノイメージングに利用されるX線ミラーにおいて、求められる精度やその作製法、最新の光学系などについて概観する。
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大画面で柔軟な有機ELパネル、酸化物半導体で実用化に前進
応用物理「大画面フレキシブル有機ELディスプレイの研究開発」
次世代のディスプレイとして,薄くて軽く,柔軟で丸めることもできるフレキシブル有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイが注目されている。日本放送協会(NHK)では,スーパーハイビジョン(SHV)にふさわしいディスプレイとして,丸めて家庭に搬入可能な大画面のフレキシブル有機ELディスプレイの実現を…
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MTJ/MOS ハイブリッドでLSI回路が劇的にコンパクト化
応用物理「MTJ/MOSハイブリッド回路技術」
不揮発性記憶機能を有する磁気トンネル接合(MTJ)をCMOS集積回路に内蔵させた新しい集積回路アーキテクチャ「MTJ/MOS ハイブリッド回路技術」について解説する。超微細加工技術の進展に伴い従来型CMOS 集積回路で一層深刻となっている電力消費増大の問題が,この集積回路アーキテクチャにより解決でき…
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メガソーラーなど低コスト・大容量に向く全炭素極2次電池
応用物理「全炭素極大容量2次電池の開拓」
電池極を炭素素材であるバイオ資源由来の活性炭で構成した全炭素極2次電池を提唱し、そのユニークな動作原理と基本性能を紹介する。長サイクル性を得意とするこの素朴で新しい2次電池は、容量・エネルギー密度において従来のスーパーキャパシタを凌駕し、鉛(Pb)蓄電池の領域に迫ってきている。
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便利なプラズマ、ダイオキシン分解や直流電流の遮断にも
応用物理「プラズマの環境・電力応用── プラズマと液体との関係に着目して」
プラズマの環境応用として水処理に用いられる「気液界面プラズマ」では,プラズマ中に蒸発した水蒸気から,有機物を分解する活性種が生成される。一方,プラズマの電力応用例である「ハイブリッド直流遮断器」では,電気接点開極時にアーク放電プラズマが形成されることで,並列接続した半導体素子に事故電流を転流させ遮断…
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絶縁、超伝導、超磁性、トポロジカル電子物質の不思議な振る舞い
応用物理「トポロジカル電子物質の開拓」
1980年代に1次元・2次元系を対象として理論構築が始まった物質中のトポロジーが2016年のノーベル物理学賞に輝いた。トポロジー効果に相対論効果を加え、舞台も自然に存在する3次元のバルク物質に移すことにより、今世紀になって物性物理学や物質科学が既存の延長線上にない不連続な進化を起こしつつある。
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CNT利用したフレキシブルなバイオ電池、微弱電流で投薬加速
応用物理「酵素駆動の皮膚通電デバイス」
本稿では、カーボンナノチューブ(CNT)と酵素の精密複合化による高活性な伸縮性酵素電極の作製と、皮膚通電デバイスへの応用を紹介する。皮膚内への通電は、イオントフォレシスによって経皮薬物浸透を促進する。
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生細胞、生体組織をスーパーコンティニューム光で観測
応用物理「スーパーコンティニューム光を用いた非線形光学イメージング」
サブナノ秒スーパーコンティニューム光を用いて我々が開発した、マルチモーダル非線形光学イメージング法について紹介し、それを用いた生細胞、生体組織のラベルフリーマルチカラーイメージングについて解説する。
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パワー半導体をニッケルめっきで接合、特性とコストを両立
応用物理「Niメッキによる高生産性パワーデバイス接合技術」
半導体の実装技術、とりわけチップ導電接続技術については、近年デバイスの高速化、小型化、高密度化への要求から、技術革新が急速に進展している。パワーデバイスにおいても、高性能化、高耐熱化、大容量化への対応、特にSiC、GaNなどのワイドバンドギャップ半導体には新たな接続技術が求められている。
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スピン流体発電~非磁性金属の流体運動から電気エネルギー
本稿では、スピン流を媒介して液体金属流体運動から電圧を発生する「スピン流体発電」を紹介する。細管に流した液体金属中の渦度分布からスピン流が生成され、管に沿った方向に電圧が生じる。これはスピントロニクスに動力を組み込む試みであり、MEMSとスピン流の融合したデバイス開発が期待される。
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カーボンナノチューブを紡ぎ出し、高強度材料やセンサーに
基板上に高密度に垂直配向成長したカーボンナノチューブ(CNT)では、蚕の繭(まゆ)から絹を紡ぎ出すのと同じように、CNT連結体がつるつると紡ぎ出される乾式紡績現象が発現する。CNTの乾式紡績現象とCNTアセンブリ材料およびその応用技術について解説する。
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SiCパワーデバイス、家電や鉄道で活用、自動車も採用間近
SiCの材料物性は、Siに対して約3倍のバンドギャップ、約10倍の絶縁破壊電界強度、約3倍の熱伝導率を有している。SiCを用いる半導体素子は、Si半導体素子と比較して高耐圧化、低損失化、高温動作化に向いており、パワーデバイス用途として優れた特性をもっているため研究開発が進められてきた。本稿では近年…
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CMOS技術による生体埋植マイクロデバイス
CMOS集積回路を搭載してその機能を積極的に生体の計測や生体刺激に利用する、新しいタイプの生体埋植マイクロエレクトロニクスデバイス研究について紹介する。CMOSチップを生体との界面に近づけて利用することで、多点電気刺激や接触型生体内イメージングなど、従来にない新しいアプリケーションを生みだすことが…
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有機レドックス分子を用いたスーパーキャパシタ
低炭素社会と脱原発の実現に向けて再生可能エネルギーの普及が最重要課題となっている。特に太陽光・風力発電の大規模導入を行うためにはスマートグリッドの負荷変動平滑化に供する大容量・高出力型の蓄電システムが必要である。また経済性向上の観点からは安価かつ資源的制約のないレアメタルフリーな部材から安全性の高い…
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昆虫の翅(はね)を基板に用いたものづくり
近年、自然の構造や機能に学ぶものづくり(バイオミメティクス)が注目され、昆虫の構造や機能を模倣していろいろな製品が開発されています。例えば、カブトムシ(甲虫目[こうちゆうもく])†1の構造では、その巧みな翅(はね)†2の折り畳み方が人工衛星のコンパクトなアンテナや太陽電池パネルに応用されています。ま…
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超高圧を利用した高品質大型単結晶ダイヤモンド合成
超高圧高温下での温度差法による単結晶ダイヤモンドの合成において、溶媒組成および窒素ゲッタや添加物の選定と最適化、高品質種結晶の適用、合成温度条件の厳格な制御などの技術開発により、直径12mm(約10カラット)の大型で高品質な高純度(IIa型)単結晶ダイヤモンドが合成可能となった。このダイヤモンドは、…
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期待のナノインプリントリソグラフィ、現状と今後の課題
型押し成形方式のナノ造形技術であるナノインプリント技術を採用して、光学部品などの製造が広がりつつある中、今度は半導体関連企業が次世代リソグラフィ技術として採用する動きが出てきた。本稿では、ナノインプリントリソグラフィの現状を概説する。基板とレジスト樹脂との界面で機能する密着分子層や、レジスト樹脂とモ…
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半導体レーザー励起大出力全固体レーザーの進展