中間バンド型太陽電池は単接合太陽電池のバンドギャップの中間にバンドを設けた構造で、光電流増加による高い変換効率の実現が期待されている。効率向上のカギを握っているのは、価電子バンドから中間バンドに励起した電子を電流整合させて、効率よく伝導バンドに光励起することである。本稿では、中間バンド型太陽電池の基礎について紹介する。
1.まえがき
多くの発電方式の中で太陽電池がユニークな点は、光子のエネルギーを直接電気に変換(光電変換)することであろう。また、発電規模も大小が自由で、メガソーラー発電のような1MWh級の発電を実現するプラントレベルのものから、住宅用太陽光発電システム、さらに小規模になると腕時計の小型電池まで極めて多様である。これによって大規模集中発電に加えて、小規模分散型発電、ユビキタス発電が可能になり、エネルギー利用の自由度が格段に増す。この太陽電池のエネルギー変換効率の向上は、太陽光発電コストに直結する重要な課題である。太陽電池には、どうしても避けることができない損失の存在によって、入射エネルギーの一部は利用できない。変換効率はバンドギャップエネルギーに依存して変化し、最大効率が存在する。pn単接合半導体太陽電池にエアマス(AM)1.5の太陽光を非集光で照射する場合、最大の変換効率はバンドギャップが1.34eVのときに32%となる。これがショックレー・クワイサー(Shockley-Queisser)の限界1、2)である。
非輻射過程がない理想的な系の場合、エネルギー損失の中身は電圧に影響するものと、電流に影響するもので分けて考えることができる。図1に、理想的な黒体輻射光入射エネルギーに対して見積もった太陽電池出力と各種損失の割合を、バンドギャップの関数で表示した3)。損失の中でも大きい割合を占めているのが透過損失である。透過損失は、バンドギャップより小さなエネルギーの光が入射しても吸収されずに透過することによって発生する損失で、これによって生成する電流が減る。次に大きな熱損失では、バンドギャップより大きなエネルギーをもった光が入射しても、励起されたキャリヤはバンド端までフォノンを放出して、エネルギー緩和してから引き出されるので、電圧の減少となる。それ以外にも、ここでは詳しく述べないが、出力電圧を低下させるカルノー損失やボルツマン損失がある。さらには輻射再結合による損失も忘れてはならない。これは当然電流を減じさせることになる。

このような損失をいかにして減らし、ショックレー・クワイサーの限界を超えていくかが、次世代型の太陽電池に与えられた課題である。この限界を超えて現在世界最高性能を出しているのが多接合タンデム型太陽電池である4)。この電池は透過損失を減らしつつ、熱損失を回避するために、光の入射側から順にバンドギャップの大きい太陽電池から小さいものへとトンネル接合で多層に積層している。積層数に応じて透過損失は減り、効率は向上すると期待できるが、逆にヘテロエピタキシャル積層技術は相応して難しくなり、転位や欠陥の発生によって非輻射遷移過程の寄与が無視できなくなると、効率は目に見えて低下することになる。