こうした貝やクルミを割ったり、アユを採ったりする行動は、親子間で引き継がれているもので、同じ地域のカラスであっても、すべてのカラスが取る行動ではない。

 また、カラスは行動の模倣も得意なので、目撃したカラスが模倣して広まっていくこともあるが、その範囲は限定的だろう。

 広まるのは、比較的賢いカラスのみにとどまる。周辺の何百羽のカラスが、一様に真似して石を落とし始めるといったことは、まずあり得ない。

 太陽光パネルに石を落すのも、こうした行動の一環で、遊びの一つだとみている。

 ただし、太陽光パネルに石を落とす行動は、一定の期間、続くけれども、その後は止まると聞いている。それは、カラスにとって、それほど魅力ではなく、飽きると止めるレベルの行動なのだろう。

 これまで、住宅の屋根などに太陽光パネルが載っていることはあっても、広い面積の地上に、大量の太陽光パネルが並んでいるような光景は、ほとんどなかった。

 そのような、見たことがない光景が、急に現れたために、見慣れるまで好奇心で遊んでいるのかもしれない。

――カラスの種類によって、習性が異なるのか。

宇都宮大学 農学部の杉田昭栄教授
(出所:日経BP)

杉田 国内には主に、ハシボソガラス、ハシブトガラスがおり、太陽光パネルに石を落とすのは、ハシボソガラスの仕業ではないかと想像している。

 ハシボソガラスは郊外に多く、ハシブトガラスは市街に多く生息している。

 例えば、貝やクルミを割る例は、ハシボソガラスによるものが多い。遊び好きなのは、だいたいハシボソガラスだ。

 もちろん、ハシブトガラスも遊ぶ。われわれが遊びの伝達の実験に使っているのは、ハシブトガラスだ。

 なぜ実験にハシボソガラスを使わないのか、疑問に思うかもしれない。ハシボソガラスは、警戒心が強く、捕えるのが難しいためである。ワナを仕掛けても、引っかかってくれない。これに対して、ハシブトガラスは、エサの肉などの魅力に負けて、簡単に捕らえられる。

 例えば、音声で追い払おうとしても、嫌がる音声が異なるので、ハシボソガラス、ハシブトガラスのどちらが石を落すのか、知っておくことが重要になる。