「エレクトロニクス基盤技術分野」(センサ・LSI、フォトニクスデバイス)と、それを用いて研究を展開する「先端的応用分野」(ライフサイエンス、医療、農業科学、環境、情報通信、ロボティクスなど)との新たな融合を目指した異分野融合研究拠点として、豊橋技術科学大学では、3年前にエレクトロニクス先端融合研究所†1(通称:EIIRIS(アイリス))を設立し、さまざまな異分野融合研究を行っています。本稿では、読者の皆さんにとって何かお役に立てればと思い、本学で進めている異分野研究が始まった“きっかけ”や“苦労話”の一例を紹介させていただきます。
†1 http://www.eiiris.tut.ac.jp/japanese/
神経電位計測用シリコンプローブアレイ(豊橋プローブ)の成り立ち
センサとLSI回路を一体化したチップ開発を展開していた私(石田)に、網膜細胞の働きのメカニズムを研究されている情報計測分野のある先生から、「石田君たちは半導体チップを作製できるのだから、細胞(10μm)からの信号を計測できる電極チップを作れませんか?」と相談がありました。しかしイメージも湧きませんし、しばらくそのままにしていました。当時、アメリカのユタ大学やミシガン大学などで開発されていたプローブ電極を見させていただいた記憶があります。ユタ大学は剣山型のシリコンブロックを削ったもので、直径が80μm程度でした。細胞サイズに比べるとかなり大きなものですが、見事な剣山電極アレイを作製し、それぞれの電極から配線を接続し、1本ずつ取り出しているものでした。すでに市販もされていたようでしたが、細胞単位に比べると径は太く、細胞へのダメージは大きいものでした。ミシガン大学では、MEMSプロセスにより、シリコンウェーハを電極構造にエッチングをしてプローブ電極を作製しており、形状は数十μmと大きなものでしたし、3次元のアレイ化には無理がありました。しかし、その先生とお会いするたびに「まだできませんか?」と言われますので、さすがに私の頭にも、優先事項として潜在するようになっていたものと思われます。年2回の応用物理学会学術講演会で行われた研究室の学生のセッションの終了間際、シリコンナノウイスカの成長の発表を聴いているときに、図1の「電極構造のイメージ」が湧いてきたのです。LSIのトランジスタ上にシリコンウイスカを成長させることができれば、理想的な細胞計測用の微小電極アレイができると着想しました。電極の直下に配置できるアンプによりインピーダンス変換、増幅、あるいは電極からの電気刺激が可能となり、サイズはトランジスタのサイズごとに形成できるので、細胞サイズに匹敵する微小電極になります。配線の問題も解決できますし、バッチ処理なので電極の数は無限に増やせると、夢はどんどん膨らんでいきました。