研究から製造、品質管理はもちろんのこと営業活動で顧客の意見に耳を傾け、クレーム処理まで対応した10年間。その間に技術者として大切な心構えを学んだ。企業人としての多くの失意と少しばかりの成功が後の青色発光ダイオード(LED)につながる貴重な経験だった

1979年に日亜化学工業に入社してから、青色発光ダイオード(LED)の開発に着手するまでのほぼ10年間、私は、技術者として大切な2つの要素を知らず知らずのうちに学んでいたようだ。
まず、いかに作るかは重要だが、それにもまして「何を作るか」が極めて重要であること。そして、何を作るべきかを知るためには技術者自身が顧客と対話し、製造現場に足を運んで、ビジネスの現場を知らなくてはならないということである。
ただし、これら一連の仕事を自ら進んで体験したわけではない。企業に所属するサラリーマンとして、多くの制約の中で体験せざるを得なかったというのが正直なところである。お金もなく人もいないから、研究から製造、品質管理に始まり、客先での製品説明や接待のような営業的な仕事まで一人でやった。
こうして過ごした入社からの10年間は、数多くの失意と、少しばかりの成功の中で「売れる技術」を開発することの大切さを痛切に感じさせられた時期だった。今思い起こせば、この間に経験したすべての仕事が、青色LEDの開発に成功する土台になったことは間違いない。