PR

素子特性に課題

 AlGaN/GaN HEMTをパワー素子として用いるためには、二つの大きな課題がある。一つは、ゲート電極に電圧を加えないとオフとならない「ノーマリー・オン動作」であること。もう一つは、逆方向耐圧の問題である注2)

注2)スイッチング時にオン抵抗が一時的に増大してしまう「電流コラプス」(電流が一時的に低下)という課題もある。これはAlGaN/GaN高周波トランジスタの開発過程で精力的に研究され、素子構造や素子作製プロセスの改善でかなり低減された。その技術が、パワー素子でも活用されている。

 AlGaN/GaN界面の2次元電子ガスを活用するHEMTは、基本的にノーマリー・オン動作である。高周波の電力増幅に用いる用途では、ノーマリー・オン動作は問題にはならないが、パワー・エレクトロニクスのスイッチング素子として用いる場合は大きな問題になる。パワー素子の制御回路が何らかのトラブルで停止し、ゲートに電圧が加わらなくなったときにパワー素子がオンの状態では回路が短絡してしまい、危険なためである。市販されているSiパワーMOSFETやSi IGBTは、ほぼすべてノーマリー・オフ動作である。

 ノーマリー・オフ動作を実現する方法は二つある。一つは、素子構造を工夫することでAlGaN/GaN HEMT自体をノーマリー・オフ化すること。実現手法は多種多用で、それぞれ一長一短がある。本稿では、代表的な二つの手法を紹介する(図4)。

図4 素子構造の工夫でノーマリー・オフ化を実現
素子構造を工夫することで、AlGaN/GaN HEMT自体をノーマリー・オフ化できる。例えば、ゲート直下のAlGaN層を薄くした、リセス(凹み)構造を設ける手法と、ゲートにp型GaN層を用いる手法がある。
[画像のクリックで拡大表示]

 一つは、ゲート直下のAlGaN層を薄くした、リセス(凹み)構造を設ける手法である。2次元電子ガスはAlGaNの分極によって誘起されるので、AlGaN層を薄くすれば誘起される量が減る。加えて、ゲート電極のショットキー接合で生じる空乏化で、ノーマリー・オフ化できる。ゲートに正の電圧を印加すると、空乏層が縮小してオン状態になる。

 簡素な構造であるが、リセスをnm単位で精度よく形成することが難しい点や、しきい値電圧を大きくできない、つまり、電磁雑音に対するマージンが小さくなってしまうなどの問題がある。

 もう一つは、ゲートにp型GaN層を用いる手法である。ゲートとチャネルの間がpn接合になり、pn接合の内蔵電位(約3V)による空乏化によって、ノーマリー・オフ動作が可能になる。p型層を形成するプロセスが必要になるが、しきい値電圧の制御も容易で実用的な手法である。この手法は、パナソニックが採用している。

 いずれの手法でも、ノーマリー・オフ化のために素子設計上の制約が生じてしまい、オン抵抗を極限まで下げにくいという欠点がある。

 ノーマリー・オフ動作を実現するもう一つの方法は、AlGaN/GaN HEMTはノーマリー・オン動作のままで、その素子にノーマリー・オフ動作の低耐圧Si MOSFETをカスコード接続する方法である。これは、ノーマリー・オン動作のSiC JFETを疑似的にノーマリー・オフ化する手法と同じである。Si MOSFETの追加コストが必要になるが、AlGaN/GaN HEMTはノーマリー・オフ化の制約を気にせずに、過去の高周波トランジスタで培われた技術を最大限活用して低いオン抵抗を追求できる利点がある。

 カスコード接続を採用しているのが、IR社やTransphorm社である。Si基板を利用しているので、Si MOSFETや制御回路、GaNパワー素子を1パッケージ化しやすい。実際IR社はIC化し、耐圧30~40VのMCM(マルチチップ・モジュール)を2010年に実用化した。この流れは、GaNパワー素子業界のトレンドの一つになるだろう。