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耐圧600V品も登場

 SiCはイオン注入によってp型領域とn型領域を形成できるので、シミュレーション技術を使って電界集中を緩和する構造を設計して、イオン注入によって作製すれば、理論値に近い高い耐圧のパワー素子を実現できる。

 これに対して、AlGaN/GaN HEMTでは、イオン注入で電界緩和構造を作製することが難しい。そもそも横型の素子なので表面に電界が集中しやすい、絶縁破壊しやすいSi基板を利用している、といった理由から、高耐圧化が難しかった。

 そこで、「フィールド・プレート構造」の利用や、Si基板とAlGaN/GaN構造の間の層の工夫などによって、耐圧向上を図っている。製品化されているGaNパワー素子は、これまでは、高いものでも耐圧200Vだったが、最近では耐圧600V品が増えている。現時点で、製品化しているのは、Transphorm社であるが、パナソニックやシャープが耐圧600V品を2013年内に量産する計画である。

 パワー素子には、アバランシェ耐性という評価指標がある。これは、耐圧を超える電圧が印加され、絶縁破壊電流(アバランシェ電流)が流れた場合、どの程度の電流値・時間までならば素子の物理的破壊(故障して動作しなくなる状態)に至らないか、というものである。SiC MOSFETは、アバランシェ耐性に優れており、何らかの問題が生じても、保護回路が働くまで、素子は破壊せずに耐えられる。

 これに対して、AlGaN/GaN HEMTの場合、アバランシェ耐性が小さいことが問題になっている。その理由は、まだ完全に解明されていない。さまざまな理由が考えられる上に、素子の内部で起こっている現象を完全に把握できていないので、学術的な結論を得るには、まだ時間がかかるだろう。現状では、AlGaN/GaN HEMTの耐圧に十分余裕を持たせている。トラブルがあっても素子の物理的破壊に至るような高電圧が印加されない回路で素子を利用する、というアプローチである。

歪み制御層のコストが課題

 パワー素子用途で実用化が始まったAlGaN/GaN HEMTだが、より普及させるには、更なる性能向上とコスト削減が必須になる。Si基板の利用によって、基板のコストは大幅に下がったものの、現状ではSiパワー素子よりも価格はまだ高い。理由は、結晶成長の工程が複雑なためだ。Si基板上で必須となるクラック防止のための歪み制御構造の層数が多く、厚いので同層の形成に時間がかかるためである。そのため、歪み制御層の製造コストの削減が欠かせない。現在、多くの企業や研究機関がこの課題解決に挑んでいる。一般に用いられているAlGaN/GaN多層構造ではなく、III族窒化物以外の新材料を歪み制御層に利用するという動きもある。