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本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第83巻、第9号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)

ガンマ線の高度利用において、既存の半導体検出器やシンチレーション検出器では実現できない、室温動作、高分解能、高検出効率を兼ね備えたガンマ線検出器の開発が求められている。本稿では化合物半導体である臭化タリウムを用いた室温で動作する新しい化合物半導体ガンマ線検出器について紹介する。

1. まえがき

 ガンマ線の高度計測技術が医学、工学、物理学、除染工学などの各分野において注目されている。ガンマ線の計測にはシンチレーション検出器とゲルマニウム(Ge)半導体検出器が広く用いられている。シンチレーション検出器は室温で動作し、安価に大体積の検出器が得られるが、ガンマ線のエネルギーをシンチレータ中で光に変換し、その後、光検出器を用いて電気信号を得るという間接変換型の検出器であるため、そのエネルギー分解能には限界がある。一方、Ge半導体検出器は、入射ガンマ線の電離作用により、そのエネルギーに比例した数の電子・正孔対が半導体中に生成され、電荷の収集によって電気信号を得るという直接変換型の検出器であるため、エネルギー分解能は高い。また、半導体検出器は電極構造、信号処理方法を工夫することにより、高い精度でガンマ線の相互作用位置を決定することができる。しかしながら、Ge検出器は室温において漏れ電流が大きく、液体窒素温度への冷却が不可欠であるという欠点をもっている。このため、半導体検出器とシンチレーション検出器双方の利点を兼ね備えた検出器を実現することを目的として、化合物半導体を用いたガンマ線検出器の開発が進められている。ガンマ線検出器用材料としての化合物半導体材料には、室温で高抵抗を得るための広い禁止帯幅、高いガンマ線吸収効率を得るための高い原子番号と密度、高い電荷収集効率を得るための高い担体移動度-寿命時間積が求められる。

 ガンマ線検出器に用いられる化合物半導体材料の中で最も研究され、市販品が広く使用されているものがテルル化カドミウム(CdTe)である1)。また、CdTeとテルル化亜鉛(ZnTe)の混晶であるCdZnTe(CZT)は、米国を中心に精力的に研究がなされており、室温において高いエネルギー分解能を示し、コンプトンイメージングも可能な検出器が開発されている2、3)。CdTeは原子番号がCdで48番、Teで52番と比較的高く、密度も6.2g/cm3と高いことから、ガンマ線の吸収が高い材料である。また、CdTeは禁止帯幅が1.44eVと広いため、ClドープしたCdTe結晶は室温において~109Ωcmと高い抵抗率を示す。さらに、CdTe結晶の移動度-寿命時間積は電子で~10-3cm2/V、正孔で~10-4cm2/Vと高いためCdTe検出器は電荷収集効率がよく、高いエネルギー分解能が得られる。しかしながら、CdTe検出器は高エネルギーのガンマ線に対して検出効率が低いことや、高価であることなどが欠点となっている。