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 2つの抵抗器を使って、抵抗分圧器を作るケースを考える。各抵抗器の温度ドリフトが5ppm/℃の場合、抵抗分圧器全体の温度ドリフト(最大値)はいくつになるか・・・。この質問は、最近、低温度ドリフトの電流検出用リファレンスデザイン「TIPD156」を設計しているときに、同僚に投げかけたものだ。もちろん、答えを自分自身で求めた後に聞いた。

 この質問の答えを、10ppm/℃と思われる方が多いだろう。しかし、分圧比が1/2のときに、温度ドリフトがちょうど5ppm/℃になることをご存知だろうか。この明らかのようで明らかでない質問について、さらに深く掘り下げてみよう。

温度ドリフトは利得で変化する

 図1は、基準電圧(VREF)とバイアス電圧(VBIAS)を、2個の抵抗器(R1とR2)の抵抗比に基づいて供給する回路である。2個の各抵抗器の温度ドリフトがそれぞれ5ppm/℃であれば、抵抗分圧器全体の温度ドリフトは、それらの合計値、すなわち5ppm/℃+5ppm/℃=10ppm/℃になるはずだ。

図1 抵抗分圧器で2つの基準電圧を作成
R1とR2からなる抵抗分圧器を使って、基準電圧(VREF)とバイアス電圧(VBIAS)を作成する回路である。

 念のため、シミュレーションを実行して(Texas Instrumentsのアナログ回路シミュレータ「TINA-TI」を使用)確かめよう。R1は負の方向に、R2は正の方向にドリフトすると仮定した。温度変化量は100℃である。この条件でのシミュレーション結果を図2に示す。利得の誤差は0.05%と求まった。つまり500ppmであり、1℃当たりに換算すれば5ppm/℃となる。これは、1個の抵抗器の温度ドリフトと等しい。つまり、両者の合計値の10ppm/℃ではない。

図2 シミュレーション結果
バイアス電圧(VBIAS)の温度ドリフトは5ppm/℃と求まった。

 なぜ、合計値にならないのかを考えよう。まず、抵抗分圧器の利得を(1)式として整理してみる。

ここで、

 αは、R1とR2の抵抗比であり、抵抗分圧器の利得を決定する定数だ。例えば、α=1であれば、利得は1/2になる。さらにα=0であれば、利得は1になる。