デザインは単なる製品の一機能ではなく、消費者のライフスタイルと企業の経営方針を結びつける重要な要素である。かつて日本の家庭用エアコンのデザインを一変させた実績をもつ田子學氏が、現在取り組んでいるいくつかのプロジェクトを紹介しながら、デザインマネジメントの本質を分かり易く解説する。
私は、いつでも講演のタイトルに「Think Design」という言葉を付けています。私の話をきっかけに、皆さんに実際にデザインを考えてもらいたいという願いを込めています。皆さんが、これからの社会とはどうあるべきかを考え、デザインを通じて素晴らしい未来をつくっていくのに、少しでもお役に立てれば幸いです。
私はエムテドという会社の代表をしながら、いろいろな大学でデザインマネジメントについて教えています。企業がイノベーションを生むためには、単に数字だけの経営ではなく、創造力や発想力が必要です。そういったものをいかにうまく経営に組み込んでいくかを考えるのがデザインマネジメントです。デザインマネジメントというのは比較的古くからある概念なのですが、日本の企業では「デザインとは製品の色や形など感性的なもの」と表層的に捉えがちです。実はそんなことはまったくありません。今日はそのお話をさせていただきます。
デザインの本質は経営ビジョン
デザインという言葉にはいろいろな捉え方がありますが、製品の色とか形とかは本質ではありません。どうやったらこの世界をもっときれいにできるかという壮大な夢、いわゆる経営ビジョンのようなものをつくることが、デザインの本質にあります。
今、世界中のいろいろなところでデザインが求められているのですが、重要なのは、デザインを中心にしてシステムとブランドをいかにつくれるか、ということです。ものが足りない時代には、デザインで単純に形と色を決めれば、欲しい人たちがいっぱいいたので、それで消費構造が成り立ちました。ところが今はものがあふれています。デザインに求められていることは、製品をいかに社会に溶け込ませていくかです。個別最適化ではなく、最大最適化という考え方です。いかにそれが世界全体で回る仕組みができるかということを考えないといけません。そういう意味ではシステムづくりを第一に考えます。
システムをつくったうえで、さらにそれがエコシステムとして、ブランドとして社会的な貢献を生み出して行く。やがて消費者の間で「このブランドはすごいね、このブランドが考えていることがたぶん未来をつくるよね」という意識が生まれていく。ものだけでなく、社会的な影響まですべて統合して考えていくのが、私がやっているデザインマネジメントです。