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食器にまつわるストーリー

 このOSOROというプロジェクトは、ナルミから何か提案があって、それを私たちが具体化したというものではありません。製陶産業の危機的な状況の中でどうしたら新しい商材がつくれるか、もしくは新しい会社に生まれ変われるのかということを、最初から考えなければならないプロジェクトでした

 最初にやったことは、まず食器という商材に求められるミッションを整理することでした。お皿は食卓で使います。食卓にあることは、誰でも分かっています。たぶん世界中の食器屋さん、つまりコンペティターはすべてそれをベースに考えています。

 そこで、食器というものを少し俯瞰してみることにしました。俯瞰すると何が起きたか。食器を中心に据えると、調理、時短、保存、収納、社会、環境などというものが網の目のようにつながっていることが分かりました。

 歴史があって自社製品に自信のある企業は、その製品のマーケットしか見ていないものです。もっとひいて見ると、全然違うマーケットが見えるし、違う考え方もできる。そこで私たちはまず、この編み目状につながっている要素の全部に対して、ソリューションを提供できないかと考えたのです。

 今日の生活において、例えば新しく家を建てると、電子レンジ、オーブン、食洗器などが付いてきます。けれども、これまでの高価なボーンチャイナは、急激な温度変化に弱かったり、装飾模様が傷んだりするので、それらで使えませんでした。そこで、材質や加工精度などを根本から見直し、現代生活にとけ込める製品を一から開発したのです。ナルミには、焼成時に収縮する陶器の寸法を精密にコントロールする高い技術があって、その技術を活かしたうえで、次の時代に何が必要かを考えるようにしました。

 例えば、器と器を重ねることによって立体物を料理する、タジン鍋のような使い方がそうです。また。シリコーン樹脂のふたを開発して、ラップの代わりに食材を保存する。皆さんはラップを毎日使っていると思いますけれども、使い捨てのラップはすごい量のごみになるのを知っていますか。10万軒の家庭が1年間に出すラップのごみは1トンを超えるといわれています。世界全体で考えると大変な量です。

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 精度についてですが、食器を効率よくスタッキングすることを可能にする特定の角度を保ちながら食器をつくるのは、とても大変な話なのです。焼成時における収縮や変形をコントロールする職人技が必要なのです。そして、私たちは陶磁器を半工業製品と言っていますが、その半工業製品に対して、シリコーンという完全に形が変わらない工業製品をいかにきちんと組み合わせられるか。それが要だったので、そこまで技術を引き上げたのです。

 ソリューションを提案していくうえで、私たちはこういう考え方をしました。「器は何に使いますか。はい、食事に使います」。食器メーカーだったら、この部分をいかに楽しい時間に変えられるかということに集中するのが当然です。ところが私たちは、器の用途は本当にそれだけかと考えました。例えば、下ごしらえがあったり、ストックしたり、料理をしたり、食べる時間もあって、さらにその後に洗って、しまう。こう考えると、これだけでも6つのストーリーがつくれるわけです。