トヨタ自動車が語る
コスト削減には自信があります
限定的な台数ではあったものの2002年に世界に先駆けて燃料電池車(FCV)をリース販売したトヨタ自動車─。それから8年後の2010年11月に開催した「トヨタ環境技術取材会」において「2015年をメドにセダン・タイプの燃料電池車を市場投入する。もちろん、消費者の手に届く価格にする」(トヨタ自動車 代表取締役副社長の内山田竹志氏)と発表した。
将来の商品企画について言明することが少ない同社にとって、車種形状まで明らかにするのは異例のことだ。FCVにここまで積極的な姿勢を見せるのはなぜか。同社のFCVへの取り組みについて、トヨタ自動車 第2技術開発本部 FC開発部 担当部長の大仲英巳氏に聞いた。
─2002年にFCVをリース販売してからかなり時間がかかりました。この間、どのような開発を進めてきたのでしょうか。

2002年に「FCHV」を投入して実証試験を進める中で、我々はFCVの基本的な性能が高いことを確信していました。その後、2005年、2008年とFCVの改良を重ねました。2008年にリース販売した「FCHV-adv」では、これまで課題だった低温作動や1充填当たりの走行距離など技術的な課題の解決が見え、ガソリン・エンジン車に近いレベルまでついに来たと感じました。
コストについては、研究開発で製作する専用品ですから、当初は非常に高いのは当たり前です。2002年の頃はコストをどうこうするというよりも、クルマとしての性能や使い勝手が本当に実用レベルに高められるのか、ガソリン・エンジン車を代替できるのかに重きを置いて開発を進めてきました。
ご存じの通り、我々はこれまでの経験からコストには自信を持っています。ですから、性能をクリアできれば、コストを削減して消費者の方々にお届けすることができると感じていました。実際、FCHV-advの開発では、コストについても目標の実現が見えてきましたので、2010年11月に「2015年をメドに市場投入する」と発表したわけです。
─市場投入だけでなく、セダン・タイプであることまで明言されました。将来の商品計画を発表するのは珍しいですね。
技術的な課題やコストの問題などを解決できる方向性が一挙に見えてきたことで、車両を市場投入するためのメドは立ちました。ですが、FCVを普及させるためには車両だけでは成り立ちません。水素供給インフラが整備されなければ成立しないのです。
そのため、水素供給インフラを整備する方々に向けて、トヨタ自動車はきちんと市場投入することを感じてもらうためにも車種形状まで明らかにしました。
その後、エネルギー企業と調整が進み、2011年1月に「2015年までに水素ステーションを先行整備していく」という共同宣言を出しました。
─2015年の普及初期、2025年の本格普及という段階では、FCVをどのくらい量産されるのでしょうか。
普及初期では、車両の連続生産ができる設備を我々が持つと考えてください。ですから、月間何台を生産するという目標ではなく、需要に応じて生産できる体制をきちんと整えるということです。本格普及という段階では、月間1万台程度の量産が目安になるでしょう。
─FCVをなぜ普及させる必要があるのでしょうか。
近い将来、原油は高騰していくでしょう。現状のクルマは原油に依存しています。そのため、他のエネルギーの利用を考えていく必要があります。一方、CO2の排出や大気汚染などの環境に対する問題への対策を考えると、電気と水素が有望な候補となります。
つまり、電気自動車(EV)かFCVとなるわけです。EVはこれまで3回ブームがありましたが、普及していません。それは、クルマとしての課題を十分解決できていないからです。
現在もEVブームですが、Liイオン2次電池の採用やITによるユーザー支援など使い勝手の改善はあるものの、1充電当たりの走行距離や充電時間など課題は残っています。
これが、FCVを用いれば全部解決できます。ただ、FCVの場合は水素インフラの整備に時間がかかってしまいます。その解決策として、ハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車があるという位置付けです。
現状だけを見れば、ガソリンはまだ豊富にあるのでガソリン・エンジン車を販売すればいいとなるかもしれません。ですが、クルマを使っている人々は、世界の人口で見るとまだ1/3程度にすぎません。これから3倍も伸びる可能性があるわけです。そう考えると、エネルギー問題と環境リスクという負のインパクトについて自動車メーカーは将来に向けて真剣に考えなければならないのです。
─技術的な課題の解決にメドが立ったとのことですが、コスト削減については具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。
燃料電池スタックと水素タンクはFCV向けの専用品となりますが、それ以外はハイブリッド車などと共通化することで、コストを削減していきます。燃料電池スタックについては、発電セルの出力密度が面積当たりで2~2.5倍に高まっています。その結果、材料にかかるコストを半減できます。さらに、非常に高コストとされる白金(Pt)触媒に使うPtの使用量を、当初の1/5程度まで削減できています。
それから、高コストなのが水素タンクです。炭素繊維強化樹脂(CFRP)をぐるぐる巻きにしますので、現状は非常に高い部品の一つです。我々は水素タンクを内製していますから、材料の見直しや製造方法の改善によってコスト低減を進めています。将来的には水素タンクのコストを当初の1/2~1/3にできるとみています。
