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本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第84巻、第5号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(最新号の概要PDF)。

 高速イメージングはさまざまなダイナミクスを研究するために最も重要な手法であり、これまでにも多くの現象の発見・解明に貢献してきた。我々は新しい領域を開拓するツールとして、従来のCCD・CMOSイメージセンサとは異なる2 種類の新規の高速イメージング技術を開発した。STEAMおよびSTAMPと呼ばれるこれらの手法は、これまでのポンプ・プローブ法のような繰り返し撮影を必要とせず、かつ既存の高速度カメラでは撮影ができない現象を捉えることができる。本稿では、STAMPの撮影原理および応用例について紹介する。

1. まえがき

 2014年のノーベル化学賞はmicroscopyをnanoscopyへと変えた超解像度蛍光顕微鏡に与えられ、科学においてイメージングの分解能を上げるということがいかに重要であるかが示された。高い空間分解能を実現する顕微鏡技術と同様に、さまざまなダイナミクスを研究する極めて重要なツールとして、高い時間分解能を実現する高速イメージング技術の開発が盛んに行われており1)、これまでにも動物の振る舞い2)やレーザー核融合3)、スピンダイナミクス4)や流体現象5)など多様な高速現象の解明に用いられている。

 ポンプ・プローブ法6)に代表される時間分解撮影法は、高速な過渡現象を観察するためによく使われる手法である。ポンプ・プローブ法の歴史は古く、1864年にはA.Toeplerが電気放電によって発生する衝撃波を、照明光のタイミングを変えつつ繰り返し観察することでそのダイナミクスの解析を行っている7)。現在においても、超短パルスレーザーを用いたポンプ・プローブ法は超高速科学研究において欠かせない手法となっている。しかしながら、この手法は動画をつくるために繰り返し撮影が必要であるため、状況を再現しにくい複雑な現象や、そもそも確率的に生じる量子現象など、繰り返し生じない現象を捉えることが原理的に不可能である。

 非反復的な現象の刻一刻と変わる様子を捉えるためには、シングルショットでの動画撮影が必要となる。動物の振る舞いはその最たる例であるが、1870年代にはE.Muybridgeが複数台のカメラを用いて馬が駆ける様子を連続的に捉えることに成功している8)。各カメラで捉えたスナップショットを順に映写することで、馬が生き生きと駆ける動画が構成できる。

 近年ではシングルショット高速イメージングのため、CCDやCMOSイメージセンサを用いた高速度カメラが広く用いられている。これらのカメラでは単位時間当たりに処理できるデータ量に制限があるため、フレームレート(単位時間当たりのフレーム数)を上げると画像解像度(1フレーム当たりのピクセル数)が反比例的に低くなる。マイクロ秒スケールになると、市販されている高速度カメラの多くで、十分な画像解像度を確保することが困難となる。

 この問題を解決するため、各ピクセルでデータ蓄積が可能なIn-situ storage image sensorカメラ9,10)や、各ポートに高速電気シャッターとイメージインテンシファイアを搭載しているマルチチャンネル式フレーミングカメラ11)などが開発されている。ところが図1に示すように、横軸に時間スケール、縦軸にフレーム数をとると、それらがトレードオフの関係になっており、依然としてある限界の曲線が存在することがわかる。この限界を超えるためには、既存の高速度カメラにはない、何かしらの新しい仕組みによる高速イメージングが必要である。

図1 高速度カメラにおける、時間分解能とフレーム数のトレードオフ。

 これに対し、1次元像の高速撮影を行うストリークカメラに工夫を加えることで2次元像を取得する手法12,13)や、記録材料面を走る超短パルス光と物体光の干渉により光の伝播を捉えるLight-in-flight holography14)など特徴的な高速イメージング法が報告されている。しかしながら、画質・時間分解能・フレーム数などを大幅に犠牲にする必要がある、撮影対象や視点に制限がかかるなど、解決すべき問題点がいくらか存在する。

 このような背景から、我々は光の分散を活用した新しい高速イメージングである、Serial Time-Encoded AmplifiedMicroscopy(STEAM)15) およびSequentially Timed AllopticalMapping Photography(STAMP)16)を開発した。前者は連続撮影モード(連続的に何枚も撮影可能なカメラ)として、後者はバースト撮影モード(限られたフレーム数だが極めて高い時間分解能で撮影を行うカメラ)として、既存技術の限界を超える性能を誇る世界最高速のカメラである。ここでは、STAMP の原理と特徴、そして応用例を紹介する。