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日経ものづくり ドキュメント
新シリーズ

プロデュース 中小企業上場の軌跡 第2回

土下座

【前号までのあらすじ】
少年時代に機械を造る父親の楽しそうな姿を見て,ものづくりで身を立てることを決意した佐藤英児。幼いころからの志を貫いたその佐藤は高校卒業後,メーカー勤務を経て1992年6月に「プロデュース」を立ち上げる。齢23。何もかもが手探りのスタートだった。仕事がない時期もあったが,以前の勤務先から仕事を請け負い,ようやく会社として軌道に乗り始めた。そんな矢先,新規の顧客から不渡手形をつかまされて大きな借金を抱えてしまう。絶望の淵に立たされた佐藤。彼の目の前には,輪になったロープが垂れている。



 受注先の不渡手形で,思いもよらぬ大きな借金を背負ってしまった佐藤英児。憔悴し切った顔で,目の前に垂れ下がるロープを見つめている。なんでこんな目に遭ってしまったんだろう。子供のころからの夢であるものづくりの会社,プロデュースをようやく立ち上げ,仕事も軌道に乗ってきたところだったのに。
 佐藤は踏み台に登る。輪になったロープが目の前に迫る。そこにゆっくりと首を掛け,静かに目を閉じる。水を打ったような静けさが辺りを支配している。もうこれまで。佐藤は軽くジャンプするように踏み台から足を浮かせ,その足で自身の体重を支えていた踏み台を勢いよくけり飛ばした。ガン,ガン,ガン。踏み台が壁に当たる音が静けさを破った。
 「ここで投げ出してしまっては,今までの苦労がすべて台無しになる。何も借金くらいで死ぬことはない。死んだ気になって頑張れば,何だってできるはずだ。そう思って,ロープに首を掛けました」
 静けさが再び空間を支配している。そこには,目をカッと見開き,2本の足でしっかりと立つ佐藤の姿があった。ロープはあらかじめ,足が床に着くギリギリの高さにしてあったのだ。
 「あれはいわば儀式でした。私が力強く生まれ変わるためには,あの儀式がどうしても必要だったのです」  受注先の不渡りはたまたまにすぎない。仕事は徐々に,しかし確実に増えてきている。復活できる。明日からまたやり直そう。儀式を通して一度死に,そして生まれ変わった佐藤の心の霧は晴れていた。