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 「期待はしても,当てにはできない」——。いつしか,東芝社内で垂直記録方式はこう揶揄されるようになっていた。1998年に開発を本格化して以来,ヘッドや記録媒体など部品での成果は上がっているようだが,HDDとしての姿を見たことがない。その認識を改めようと,田中陽一郎の命を受けた下村和人らは,2000年後半から垂直記録方式のHDDの試作に必死に取り組んでいた。

 それからさらに半年近くたった2001年5月。ついにディスク片面のすべてで読み書きできる試作機が出来上がった。密度は21Gビット/(インチ)2,容量はディスク片面で6Gバイトである。

「ようやくだね」
「いやー長かった」

 これでヘッドだけ,記録媒体だけの評価から踏み出せる。製品開発部門に胸を張って提示できる,大きな成果である。青梅事業所の20号建屋と呼ばれる建物の一室で,田中らは自分達の快挙に酔いしれた。