石井 茂
日経BP社 主任編集委員
絶対安全な暗号として現在,活発な研究開発が進む「量子暗号」は,言葉のイメージとは異なり,任意のデータを暗号化する手法ではなく,暗号の「鍵」を安全に送る「鍵配送」の手法(プロトコル)である。量子暗号のシステムでは,量子の性質を利用して鍵を配送し,既に知られている暗号アルゴリズムを使ってデータを暗号化して送る。
量子暗号システムは光子の状態を測定して情報を伝達する。このときに信号の検出に使うのが「干渉」である。有名な2重スリットの実験を使って説明しよう。この実験は壁に開いた穴(スリット)に光子を通過させ,それが壁の後ろに置いたスクリーンのどこに到達するかというものだ。光子は粒子であるが波でもあるため,スリットが一つの場合,スリット通過後は広がった状態になり,スクリーンにはぼやっとした像を作ることになる。つまりスリットを通り抜けた光子がスクリーンのどこに到達するかは,確率的に決まる。