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原動力はユーザー視点のアイデア

 こうしたサービス側の視点からの機器開発を目指すネット家電ベンチャーは日本でも登場し始めている。ブログ「キャズムを超えろ!」を運営するアルファブロガーの和連和尚こと,岩佐琢磨氏が立ち上げたCerevo(セレボ)はその一つだ。

セレボの岩佐社長
図3 セレボの岩佐社長

 同社は2009年春の発売を目指してネット接続機能付きデジタル・カメラの開発を進めている。撮影した写真を無線LANでWebサーバーに送り,サーバー上で写真を編集したり,ブログやSNSなどのネット・サービスに転送したりできるようにする計画だ。

 「数年前には数百万~数十万円していたハードウエアの試作用開発キットなどの価格が10分の1になっている。組み込み系のオープンソース・ソフトウエアも充実していて,機器開発するだけならば,あまり資金がなくても手を出しやすくなった」

 岩佐社長は家電ベンチャーを立ち上げた理由を,機器開発のハードルが下がったことが大きいと説明する。プリント配線基板を数万円程度で安価に試作してくれるネット・サービスなどが広がり,トライ・アンド・エラーを繰り返す開発体制を実現しやすくなったのだという。

 「現状ではネットと家電は“水と油”のような関係。大手メーカーは,他社が提供するネット・サービスと連携する製品は作りにくい環境にあります。だから,まずはフットワークの軽いベンチャー企業から製品が登場している」

 現在のネット家電の多くは,なぜネット・ユーザーが普段使っているサービスとスムーズに連携できないのだろうか――。岩佐社長の思いは,フリービットの石田社長の考えにも共通する。経営者・技術者・企画者としてというよりは,むしろネット・ユーザーとしてのもどかしさが新しいタイプの家電を生み出す原動力になっていると言えそうだ。

企業側のアイデアをユーザーが超える時代

 こうしたベンチャー企業の動きに同期するかのように大手メーカーも新たなネット家電の姿を探る動きを見せ始めている。

図4 ソニーのデジタル・カメラ「サーバーショットDSC\-G3」
図4 ソニーのデジタル・カメラ「サーバーショットDSC-G3」
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 ソニーは2009年1月に無線LANを搭載したデジタル・カメラ「サイバーショットDSC-G3」を発売した。ネット閲覧ソフト(ブラウザー)を搭載し,ネット接続環境さえあれば,ユーザーは撮ったその場でSNSやブログ,写真共有サービスなどに写真を投稿できる。メーカー側で用意した写真保存・投稿サイトではなく,多くのユーザーが使うネット・サービスで利用できるよう機器の使い方を“開放”した。

 「メーカー側でサービスを押し付けても,ユーザーにとっては決してうれしいことではない。使い方の自由度を高めることで,ユーザー側で新しい利用法を考えてくれることに期待しています」

 ソニーの企画担当者はこう話す。ネット・サービスでは,UGCに代表される利用者参加型サービスのように,サービスを提供する側が考えたアイデアを超えるユーザーの新しい発想が新市場を生み出すきっかけになることが少なくない。同社は,2008年9月,液晶テレビで提供しているコンテンツ配信機能「アプリキャスト」用のウィジェット開発ツールを個人向けに提供し始めた。プロの開発者だけに提供してきたツールを一般ユーザーに開放することで,個人が作ったウィジェットがテレビで動くようになる。

 広い視点で見れば,米Google社の組み込み向けソフトウエア群「Android」も,サービス側の視点で機器開発に挑む動きの一つだろう。同社は今のところ,ハードウエアを作るとは語っていない。だが,他社がAndroidを使ったデジタル家電を開発することで,Google社が構想するネット・サービスの部品の充実度が高まる。開発のハードルを下げる基盤を提供することで多くのメーカーや開発者が機器開発に参加する。この状況は,自社サービスの可能性を広げる機器開発にGoogle社が間接的に関与していると言える。

 サービス側の視点による少人数での開発体制の勃興は,別の角度から見ると「機器の使い方の自由度を高め,私たちに開放して欲しい」というユーザーの声にもつながっていそうだ。

 こうした声は,現状ではソフトウエアやコンテンツによる機器の使い方のレベルにとどまっている。今のところ,ハードウエアについてユーザーは受身で,ハードウエア開発には口を出せないからだ。だが,一度,新しいデジタル家電で面白い使い方が生まれれば,ユーザーの声は次第に家電の機能面,ハードウエアの心臓部にも及ぶことになるとの見方は少なくない。

 大手メーカーでなくても製品を開発できる「誰でもメーカー」の時代には,ユーザーすらも機器開発のライバルになる。そのとき,いかに製品開発のプロセスに“プロシューマー(生産消費者=生産に加わる消費者)”を積極的に取り込むか。機器メーカーがそれを思案しなければならない時代が近づいている。