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旺建 代表取締役の安守氏
図1 旺建 代表取締役の安守氏

 UGD(user generated device)時代には,ユーザー一人ひとりのアイデアや要望に沿った製品を開発する場合もあるだろう。その先例といえるのが建築業界である。ユーザーが持つアイデアを少数の仲介者が醸成し,製品企画に落とし込むことが一般化している。そしてその企画を基に,分業制で製品(住宅)を造っていく。こうして分業化が進んでいると,独立して起業を志す人も多い。中には全くの異業種から飛び込んでくる人もいる。UGD時代でも,同じようなことが起こるだろう。

 そこで,証券業界から建築業界に転身した後に起業し,現在は10%と高い利益率を誇る旺建の代表取締役 安守直敏氏に,同社のビジネスの秘訣や独立を志すまでの経緯について聞いた。

――会社の状況を教えて下さい

安守氏 弊社は2002年に設立した会社で,香川県で注文住宅を手掛けています。現在,社員数14名で,年間の施工数は40棟程度。社員全員が設計やデザインなどを担当し,営業部隊はいません。事業規模としては2008年の売上高が約10億円で,営業利益は約1億円でした。

――建築業界で利益率10%はかなり高いと思います。その秘訣は何なのでしょうか

安守氏 秘訣というほどのことは特にありません。顧客に徹底的に向き合うことと,ムダな支出を減らすことに注力した結果です。例えば顧客によっては契約に至るまでに1年ほど話し合うこともあります。ムダな支出を減らすとは例えば,営業費をかけないことです。具体的にはモデルハウスを建築しないこと。モデルハウスを一棟建てるには,大体5000万円かかります。さらに営業専門の部隊も必要となります。年間20棟以上を売らなければ元が取れません。営業部隊を5人雇えば5000万円必要となります。つまり合計で1億円もかかるわけです。でもこの1億円は,顧客にとってどんな意味があるのでしょうか。モデルハウスと同じ家を建てる人はいないわけでして・・・。結局,製品の価格を押し上げる要因にしかなっていない。つまり,ムダです。こうしたムダを一つずつなくしていけば,顧客の信頼も生まれ,利益も出せます。

――起業するまでの経緯を教えて下さい。もともと証券会社に勤めていたにも関わらず,建築業界に転身したのはなぜですか

安守氏 大学を卒業後,香川県の証券会社で働いていました。特に目的があったわけではありません。強いて言えば,証券会社なら名刺1枚で多くの人に会える,だから何か見つかるかなと思っていました。結局,見つかりませんでしたけど。そこで6年程度働いたあるとき,転勤の辞令を受けました。そのとき,もう十分だなと思って辞めました。その後,もともと自分は何がしたいのかをもう一度よく考えてみました。それがモノづくりとデザインだったのです。そして,それを実現するには建築業界がよいと考えました。

――実際に,全くの異業種となる建築業界に飛び込んでみてどうでしたか

安守氏 知り合いの伝手で香川県の工務店に雇ってもらったのですが,最初は本当に苦労しました。30歳程度と既に年齢も重ねている上に建築の知識もない身分ですから。でも,家が形になっていくのはとても楽しい。懸命に働きましたよ。他の人が5年かけて学ぶところを,1年で覚えてやるくらいのつもりでした。最初はゴミ拾いなどの掃除や資材の整理ばかりでしたけどね。ただ今思い返せば,こうした体験は非常に役に立っています。ゴミ拾いは楽しいとはいえない作業ですが,現場では欠かせない作業です。こうした作業をする人の心理が分かれば,監督する立場になっても,どうやって動いてもらえばいいのかが分かるからです。

――その工務店で働いていた後,なぜ独立しようと考えたのですか

安守氏 実は独立をしたいという意識はそれほどありませんでした。ただ,働いていた工務店を経営する社長や家族と後継ぎの件などでもめてしまって・・・。それで工務店を辞めるしかないなと。そこで独立しようと決意しました。2002年ごろです。私は37歳でした。

――独立に際して,資金面では苦労しなかったのですか

安守氏 実はそれほど苦労していません。起業当時の自己資金は約600万円。加えて,香川県の融資制度を利用して1000万円ほど借りられました。さらに実家を担保に600万円も借りました。資金繰りに注意すれば,これで十分です。実際のところ,会社を運営する上で借入金の1600万円には一切手をつけませんでした。

――建築業界というのは,代金を回収するまでの期間が長く,ある程度の資金を持っていなければ資金繰りが難しそうなイメージがあります。どのようにして,資金繰りをしていたのでしょうか

安守氏 お金の出入りの順番には特に注意を払いました。この辺は,証券会社時代の経験が生きたのかもしれません。具体的には,顧客からの代金は4回に分けて頂くことと,左官や大工などに支払う代金の順番に気を配っています。弊社の請け負う住宅の平均単価は2500万円なのですが,契約時にまず100万円ほど頂きます。その後,着工時に約1/3,上棟時に約1/3,引き取り時に約1/3というように。その合間に,左官屋さんなどに代金を支払っていきます。あとは,手形を切らないことでしょうか。手形はどんな人の手に渡るか分かりませんからね。

――他業界では当たり前のようにも思えますが,そうした資金繰りを丁寧にすることは,建築業界ではあまりないのでしょうか

安守氏 少ないと思います。この業界では7割くらいの事業者は赤字。本当に利益管理はアバウトです。でも,これではいけません。住宅はとても長い間使われる製品です。施工を担当する事業者は,長期にわたって面倒を見続けなければいけない。だからこそ,つぶれてはいけません。そのためには,きちんと利益を出さねばならない。今の建築業界では,そういう意識が足りないのではないでしょうか。ただ,逆に言えば,こうした点などをきちんとすれば,異業種から入ってきてもモノづくりを味わえる業界ともいえます。もし自分の作りたい建築のイメージがあるなら,飛び込む価値はあると思います。