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写真:栗原克己

 製品アーキテクチャの議論で,よく「日本は擦り合わせに強い」と端折って言う人がいますが,これだけを聞いて誤解する人が多いんです。「日本人には擦り合わせのDNAがあるから,擦り合わせていれば勝てる」とかね。

 そうではなくて,僕が言っているのは組織能力の構築論なんです。例えばトヨタ自動車がパソコンを造っても米Dell社に勝てるわけじゃない。逆にDell社が自動車を造ってもトヨタに勝てないでしょう。つまり,調整能力を育ててきた組織は擦り合わせの多い設計を得意とし,分業方法の構築に優れた組織はモジュラー型の製品と相性がいいという話です。

 ここで大事なのは,製品固有のアーキテクチャというのはないこと。例えば,ひと口に「自動車は擦り合わせ」と言っても,設計は時代とともに進化するし,地域によっても変わる。だって,中国のクルマは同じエンジンと同じ電装品を搭載していたりしてモジュラー的でしょ。同じ低価格車でも,インドTataMotors社が造る「Nano」は,詳しい人に言わせると「あれは擦り合わせ」。安くするために多くの専用部品を用意する発想は,確かにパソコン的ではない。
〔以下,日経ものづくり2009年4月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 原田 衛)

藤本隆宏(ふじもと・たかひろ)
 1955年東京都生まれ。1979年東京大学経済学部卒業,三菱総合研究所入社。1989年米Harvard Business Schoolで博士号取得,同大学の研究員に。1990年東京大学経済学部助教授。1997年Harvard Business School上級研究員。1998年東京大学大学院経済学研究科教授。2004年東京大学ものづくり経営研究センター長。『日本のもの造り哲学』(日本経済新聞社), 『ものづくり経営学─製造業を超える生産思想』(光文社)など著書多数。統合型ものづくりシステムの一般体系化などの研究に取り組む。団塊世代のものづくりのベテランを再教育して「ものづくり知識を教えるプロ」として育成する活動を進めており,ものづくりの技術やノウハウの継承に貢献する。