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 「用の美」という言葉がある。民芸運動の提唱者であった柳宗悦が,実用のモノづくり(技)の中に潜む美を“再発見”した際の言葉である。西洋にもアート(art)という,技と美の両方を語源に持つ言葉がある。しかしそれは決して日常のものにまで広がる概念ではない。この日本独自の用の美は,世界的にも例がないほど太平の世が続いた江戸時代にはぐくまれた。

 刀や鉄砲を作っていた匠の技は,鋤や鍬に転用され,社会のために,人々のために,広く日常の生活で使われるようになった。欧米ではトーマス・エジソンの活躍などを起点として技術の大衆化が始まったが,日本ではそれより1~2世紀早いのである。

〔以下,日経ものづくり2009年7月号に掲載〕

鈴木一義(すずき・かずよし)
国立科学博物館 理工学研究部 科学技術史グループ グループ長
1957年新潟県生まれ。東京都立大学大学院工学研究科で材料力学専攻修士課程を修了。日本NCR技術開発部勤務を経て,1987年から国立科学博物館理工学研究部,現在に至る。専門は,江戸時代から現代までの日本の科学/技術の発展史。