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余計な動力を極力使わず,形状や機構を工夫することで実現する「からくり」によって生産現場の改善に取り組んでいる企業は多い。その目的としては従来,作業時間の短縮や作業ミスの削減といった効率化を主眼としていたが,ここに来て作業者の負荷低減や安全性の向上など,人に優しい作業現場を実現することに重きを置くケースが増えてきた。

 生産効率を上げるための改善活動は,言い換えれば,時間当たりの作業完了数を拡大することを目標とする。組み立て作業の時間短縮をはじめ,工程間の搬送時間の短縮,ムダとなるミスの削減などが具体的な取り組み内容となる。大きなコストを掛けずに,機構などを創意工夫した「からくり」は,そのための有効な手段だ。

 ただ,最近では直接的な生産効率の向上だけではなく,作業者の働きやすさに注目した改善が増えてきている。生産現場では女性の作業者が活躍する場面が増え,作業者の高齢化も進む。働く人が多様化していることがその背景の一つだ。

 以下,肉体的な負担の低減や,安全性の向上を狙った「からくり」の数々を紹介しよう。

低い天井と15kgのフタ

 マツダの本社工場が負担軽減と安全性向上のために取り組んだ改善の一つに,自動車の塗装に使う塗料をあらかじめ調合する工程の事例がある。同工程では,ドラム缶の中に入った塗料を撹拌機によってかき混ぜる。この撹拌機は,フタと一体化したもの。フタの上のモータからフタの裏側に向かって長いシャフトが通り,その先端にスクリュが付いている。従って,塗料の入ったドラム缶にフタをかぶせて,モータを回転させれば撹拌が可能になる。

 ドラム缶の中の塗料がなくなると,フタ(撹拌機)を新しいドラム缶に付け替えればいい。ただし,撹拌機と一体となったフタの総質量は約15kgと重い。それを,ドラム缶の内面などにスクリュが接触しないように持ち上げなくてはならない。重労働だ。

 マツダではこの作業を確実に行うために,一部の工場ではフタを垂直に持ち上げる昇降装置を導入している。ところが,同社本社工場の中には昇降装置を設置できない場所があった。昇降装置を設置するには2m以上の天井高さが必要だが,そこは約1.8mと20cm低かったためだ。そのために同工場では,作業者が両手を使って慎重にフタを持ち上げ,新しいドラム缶へと付け替えていた(図)。

 この作業は,腰や腕に大きな負担がかかるばかりか,安全面にも課題があった。誤ってフタを落下させた場合はけがにつながる危険があるし,長いシャフトの先端にあるスクリュがドラム缶などに接触し,衝撃火花が発生する可能性もある。有機溶剤を使う塗装工程では,火花の発生は大きな災害へとつながりかねない。

 そこで同社は,作業者に大きな負荷を与えることなく,ドラム缶のフタを正確に取り換えられる補助装置「フタ(ハ)コブラクダ」を考案した。補助装置の2本のアーム先端でフタのフック部(従来は手で持っていた部分)をつかみ,アームの一部を片手で引っ張ることでフタを取り外す。アームの“根元”部分は補助装置本体の底面に軸受で固定されており,そこを中心に先端部が円弧を描くように動く。

〔以下,日経ものづくり2009年12月号に掲載〕

図●従来のドラム缶の交換の様子
ドラム缶のフタには撹拌機が取り付けてあるため,質量は15kgにも及ぶ。従来は人手でフタを持ち上げて取り換えていたが,身体的な負荷が大きいばかりか,誤ってぶつけてしまった場合に火花が生じる可能性もあった。