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Liイオン2次電池のさらなる安全性向上を目指した開発は,絶え間なく続けられている。安全性を重視すると肝心の容量が小さくなり,その両立は難しい。今回はまず,主に正極材料の違いによる安全性と容量の関係を述べる。その後,高容量化を狙った最新の研究成果を紹介する。高容量化に関しては負極材料の開発が盛り上がる一方で,正極材料に関しては目新しい成果があまり出ていない。(本誌)

西 美緒
元ソニー 業務執行役員上席常務

 今のLiイオン2次電池(LIB)を取り巻く環境は,筆者にはシェイクスピアの戯曲『ベニスの商人』のように思えてならない。

 多くの人は,“ベニスの商人”が高利貸しの悪人“シャイロック”だと思うらしい。しかし,本当の“ベニスの商人”は友情にあつい善人“アントーニオ”である。親友のために借金の保証人となり,期限までに返済できなければ自らの体の肉1ポンドを切り取ってもよいという証文に,サインまでしてしまう。しっかりと熟読すれば,誰もが合点いくはずだ。

 LIBも同じ。“熟読”せず,なんとなく危険な悪者だとする風潮が強まっている。本当は“アントーニオ”であるにもかかわらず,“シャイロック”ではないかとの大きな誤解がはびこっている。この誤解を解く狙いから,第5回(2009年12月28日号)では,LIB自身の危険性よりも扱い方に問題が多いことや,今後有望な電解液による安全化技術(イオン液体やレドックス・シャトル材など)について紹介した。微力ながら,“アントーニオ”を救い出す美貌の貴婦人“ポーシャ”の役を買って出たつもりである。

 今回も,まずは“ポーシャ”を演じたい。具体的には,第5回の電解液に引き続いて,LIBを構成する正極と負極の活物質による安全性向上の可能性について解説する。その後,高容量化に向けた開発の最前線を紹介する。

FeとMn系は安全だがサイズに難あり

 LIB自身の事故の多くは,前回までに述べたように,過充電や高温にさらされた際の正極の不安定さに起因すると考えられる。代表的な正極材としては,出力特性やエネルギー密度に優れるコバルト酸リチウム(LiCoO2)やニッケル酸リチウム(LiNiO2)といった層状化合物が挙げられる。こうしたCo 系やNi系の正極の熱安定性は,他の材料と比べて相対的に低い。

図1 LiNiO2の発熱量は大きい
4.2Vに充電した正極の発熱量の曲線を見ると,LiCoO2と比べてLiNiO2は低い温度での発熱量が大きく,熱安定性が低いことが分かる。
『日経エレクトロニクス』2010年2月22日号より一部掲載

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