PR
「ホンダ イノベーション魂!」は、独創的な技術開発で成功をたぐり寄せるために、技術者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座。数多くのイノベーションを実現してきたホンダでエアバッグを開発した技術者が、イノベーションの本質に迫る。

 あなたがとびっきりのイノベーションのアイデアを持っていたとしよう。商品に組み込めば、今まで見たことも聞いたこともないような機能を実現できる。しかもそれは、顧客が心から望んでいる機能だ。もちろん、部署としての正式なプロジェクトではないので、自分の時間を使ってサーベイする。原理的には不可能ではない。技術開発の道筋は混こんとん沌としているが、致命的なデッドロックはないようにみえる。「技術的には筋がいい」。そう、あなたは確信する。

 ある日、あなたは思い切って「この技術の可能性を探ってみたい」と、上司に相談する。ところが上司は迷惑そうな表情を浮かべ、「君には今、ほかにすべきことがあるんじゃないか」と不機嫌になる。まるで「言われたことさえやっていればいいのだ」と言いたげだ。あなたはガックリする。

 いや、そんな無理解な上司ばかりではない。あなたの提案の価値と可能性を理解し、仕事としてその技術を検討してもよいと判断してくれる上司も、中にはいるだろう。そして検討を進め、満を持して役員会に提案。すると…。「開発にどれくらいの時間とカネがかかり、どれほどの利益が見込めるのか。その根拠は」「思い込みが強すぎる。そんな機能を顧客は欲しいと思うだろうか」などと集中砲火を浴びる。結局、あなたのアイデアは泡と消える。

〔以下、日経ものづくり2010年5月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 経営戦略研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California、Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年日本初のSRSエアバッグの量産・市販に成功。小林氏の開発したエアバッグの構造・機構が他社も含め、その後の量産型エアバッグの基本になる。この間のエピソードはホンダのWebサイトで紹介されている(http://www.honda.co.jp/novel-honda/souzou.html)。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後。2006年3月一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授に就任(2010年3月末まで)。2010年4月から現職。