
この連載の目標は何か。もしこう聞かれたら、筆者は何と答えるか──。
「自ら体験し、実践してきたイノベーションの手法や、それを促すホンダのユニークな企業文化・DNAを理解してもらうこと」と答えたとしよう。全然駄目である。自分で書いて駄目というのも変な話だが、悪い答えの見本だ。ホンダでこんなことを言うと「バカか、おまえは」と一言で片付けられ、相手にされなくなる。
この答えは一見すると模範解答のようだが、当たり前のことだから駄目なのだ。どこかの経営者が「世界経済は未だに予断を許さない状況。ここは全社一丸となって社業をもり立てていきたい」と話しているのと同じだ。そんなことは、みんな知っている。言うべきことは、社業をもり立てるための具体策である。
この2つに共通するのは、自分がないことだ。つまり一般論。そんな一般論よりも、例えば「読んでもらった人に、小林とメシを食いたいと思わせること」という目標の方がはるかにグッとくる。これには小林の人柄が出ているし、何よりも皆さんと人としてかかわりたいという思いが感じられるからだ。
〔以下、日経ものづくり2010年6月号に掲載〕
中央大学 大学院 経営戦略研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)