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「ホンダ イノベーション魂!」は、独創的な技術開発で成功をたぐり寄せるために、技術者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座。数多くのイノベーションを実現してきたホンダでエアバッグを開発した技術者が、イノベーションの本質に迫る。

 ホンダのイノベーションに関して、「その秘訣は何か」とよく聞かれる。「そんなものはない」と答える。あるいは「ホンダには哲学があるから」と話す。すると、「哲学ですか?」と怪訝そうな顔をされる。

 ホンダの哲学は、秘訣というような薄っぺらなノウハウではない。むしろ、その対極にあるものだ。ただし、哲学の教科書に載っているような難解なものではない。日ごろの技術開発や事業活動の中に根付き、常に社員の身近にあるものだ。その哲学が、イノベーションの成功率を確実に高めるのである。

 今回は、その哲学に基づいて、ホンダはいかにイノベーションの成功を引き寄せているかについて、全体的な見取り図を示したい。筆者がホンダ退職後、大学に身を置き、さまざまな企業の方々と議論する中で浮かび上がってきたのものだが、ここで初めて紹介しよう。それには、まず、おやじの話をしなければならない。おやじとは、ホンダ創業者の本田宗一郎・初代社長のこと。我々は敬意と親しみを込めて、「おやじ」とか「おとっつぁん」とか呼んできた。

 おやじはこう話している。「理念・哲学なき行動(技術)は凶器であり、行動(技術)なき理念は無価値である」。では、その哲学とはどんなものなのだろうか。そのありようを示す象徴的な例がある。

〔以下、日経ものづくり2010年7月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。